愛を囁くよりも先に…金澤純の秘め事…-2
「さきほども松本が申し上げたのですが、きちんと報告をしようと思いまして。父から聞いてるとは思いますが、相手は自分の秘書をしている坂下麗(さかしたれい)という女性です」
金澤さんはとても真面目な顔をしている。
まるで付き合っている彼女を親に紹介するような態度を社長にとっている気がしてならなかった。
「雪人は…結婚しないかと思っていたから、純粋に嬉しく思ってるわ。おめでとう。籍はまだ入れてないみたいだけど…式は?」
「籍を入れなかったのは…あなたに認めて欲しかったからです。今の言葉を聞いて、きちんと籍を入れる決心がつきました。
あと…挙式はするつもりはありません」
「…雪人、それは女性の方は許したの?」
社長はため息をついて小さな声でそう言った。
何だか、ピリピリした変な空気が流れている気がするのは…
俺の気のせいなんだろうか?
そんな雰囲気から逃れたくて、俺はまだ熱いままのコーヒーを口へと注ぐ。
「…はい」
金澤さんは一言だけそう言った。
「そう…よかったわね。いい人が見つかって。まさか、雪人に好きな人ができるなんて思わなかったから」
その社長の言葉に、金澤さんの顔が引きつった気がしたのだが…
――いや…確かに金澤さんは唇を噛んでいる。
明らかに、癇癪を起こしていた。
「これで、失礼します。純さんも…いいお相手が見つかるといいですね」
金澤さんの隣にいた松本さんが立ち上がり、そう言った。
この場から、まるで逃げたいかのように。
「…あたしの隣にいるじゃない。あたしはそのうち三沢と結婚するわ」
「――えっ?!」
俺は真横にいる社長を見る。
今…俺と結婚する、って言ったのか…?
俺には心の準備が全然できてないんですけど?!
「そうですか」
先ほどまで唇を噛んでいた金澤さんがフッと笑う。
…作り笑顔、ではないと思う。
本当に心から嬉しい、という笑顔だと俺は思った。
「では、帰ります。久しぶりに会えて良かった」
2人がドアの向こうに消えても、俺は立つことができなかった。
『三沢と結婚する』…って?
俺と、社長は結婚したいって思ってるのか?
それに…さっきの変な空気。肌で、感じ取ってしまった。
多分、俺以外の3人はその空気が流れることをわかっていた。
だから今日の社長は変だと俺は思ったんだろうか。