愛を囁くよりも先に…金澤純の秘め事…-1
「本日のご予定ですが――」
朝、いつもこうやって秘書である俺が社長に予定を伝えるのはもちろん日課だ。
日課だからこそ。
今日の社長の様子が気になった。
俺自身はもちろん普通だ。
だけど、何だか社長の様子が違う。
「――午前11時頃、金澤雪人(かなざわゆきひと)様が秘書の方といらっしゃいます」
愛を囁くよりも先に
…金澤純の秘め事…
11時が過ぎた頃だった。
ノックの音がして、俺はドアを開ける。
もちろん来たのは、金澤雪人。
俺より5歳年上で社長は彼の姉にあたるそうだ。
社長と同じく別の支社の社長をしている。
隣にいるのは髪は長いが、…雰囲気は加藤美緒(かとうみお)にそっくりな女性だった。
「おはようございます。本日はお忙しいところを申し訳ございません」
と金澤さんが言った。
俺はすごく礼儀正しい人だな、と思った。
ここがいくら公的な場だとしても社長は金澤さんのお姉さんなのに。
「ううん…雪人、久しぶりね。梨絵ちゃんも」
社長は横にいる秘書であろう女性にそう話しかける。
『梨絵ちゃん』って…仲いいのか?
「本当ですね。今日の用事は何って、雪人がちゃんと自分から結婚の報告をしたいってことなんです」
それに、この『梨絵ちゃん』とやらも『雪人』って呼ぶなんて…どういうことだ?
社長は席から立ち上がって、俺の隣までやって来る。
「三沢、意味分からないって顔してる。梨絵ちゃんと雪人はね、今は秘書と社長っていう関係だけど元々は高校の同級生なの」
「そうなんですかあ。
あ。俺、給湯室に行ってきますね。コーヒーいれてきます」
俺は社長室を出る。
『いつもと違う社長』は気のせいだったんだな、と思って給湯室の電気のスイッチをいれた。
――社長室に戻ると3人はとても仲が良さそうに話をしている。
その光景にホッとする俺がいた。
…やっぱり勘違いだったんだな。
「ありがとう、三沢。三沢も座って?」
「あ、失礼します」
4つのコーヒーをテーブルの上に置いてから俺は社長の隣に座った。