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先を生きるもの
【悲恋 恋愛小説】

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先を生きるもの-9

「そうです。私はあなたが言うようなものを認められて教師になったわけではありません」



 こいつは悪びれもせずに、俺の目を真っ直ぐに見つめ、透き通るような声で話し出した。



「いえ、恐らくこの世界に存在するほとんどの教師がそうでしょう。生徒を暴力で押さえつけるもの、成績を与える代わりに体を要求するもの、自分の教育という型にはめて生徒の個性を殺すもの、挙げればキリがありません」

「それがわかっているなら話が早いね。俺はあんたらに教えられるものなんて何もない!」

「ありますよ」



 俺の目を見つめ続ける。そのまっすぐな瞳の中には、迷いなどない。だが、俺がその瞳の中を覗くと、迷路のように入り組んでいる。まるで、光源の位置がわからなくなるくらいに光を屈折させているかのようだ。本当は一筋の光なのに、わからなくなる。怖くなる。



「なんだよ、何なんだよ、あんたは!」



 見えないという恐怖に怯える。今まで出会ったことのないような人間、自分が今まで生きてきた人生の中でも存在し得ない、まるでわからない。



「私はあなたのクラスの担任です。そして、私はあなたを知っています」

「何を知っているんだよ……」

「正確にはあなたのような人間を、と言うべきですね。他人を拒絶し世界を嫌い、自分以外をくだらない人間と決め付ける人を。ただ、私が知っている彼とあなたは決定的に違うところがあります。それは、周りに心から信頼を置ける人が居なかったことです」



 知るかよ。そんな人間がいるからって何だってんだ! こちらの本心を見せたら不利になるだけだ。相手の本心を探り、理解し、利用することがこの汚れた世界を生きるための方法だ。



「今、あなたが思っていることは間違っています。他人の本心なんて探っても出てきません、ましてや理解することもできません。利用できていると思っているのは、あなたの思い上がりです」

「なっ……」



 何なんだよ、こいつ。超能力者かよ。なんで俺が考えていることがわかるんだよ。



「図星ですか? 私でもわかるんです、きっと勘の鋭いあなたの友人は気付いていますよ」



 そんなことない。あいつらは……そんな鋭い奴らじゃない! くそ、何なんだよ。もう意味がわからない。


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