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先を生きるもの
【悲恋 恋愛小説】

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先を生きるもの-8

「だから……!」



 にっこりと微笑む。



「そうやって考えていると、ある男性に声をかけられたんです。たぶん年上の人です。その人は私を近くの喫茶店に誘いました。私はそれを深く考えないで承諾したんです」

「……あんた、俺の話聞いてないだろう!」

「悪い人かなとも思ったんですが、雰囲気がとても柔らかくて、きっとこの人は大丈夫だろうなって、思いました。

 あの人はとても楽しく話していました。私が適当に相槌を打っても、それを気にも留めずに。その人を見ていると、なんだか、私の悩みなんてどうでもいいかなって思い始めたんです」



 立ち上がって、キッチンへと向かう。



「それで、その彼の待ち人が来たとき、彼は言いました。

 君は教師が向いていると思うよ。だって、若いという苦しみを知っているから、って私の名前も知らないくせに、彼は去り際にそう言ったんです」



 ふふ、と背中を見せて笑っている。

 そして、とぽとぽと何かを注いでいる。



「はい、紅茶です。気持ちを落ち着かせるにはいいと思いますよ」

「そんなくだらない話がしたかったのか?」

「いいえ。これは私の話です。あなただけ一方的に自分の話をしたのでは不公平でしょう? だから、私は自分の話をしたんです」



 あいつは、紅茶を一口飲む。



「あなたは、本当はとても優しいんです」

「俺は……違……!」

「あなたは苦しみを知っている」



 かちん、と何かが外れた。それはきっと、俺の怒りのリミッター。



「教師面なんかしやがって、そんなもの紙に書かれたものを手渡されたならば誰にだってなれる職業じゃねぇか! 倫理や思想、態度、全部評価されたわけじゃない、あんたの成績が教師になるのに足りていただけだ!」



 教師なんて誰だってなれるんだ。でも、誰一人教師なんていない。誰も生徒のことを考えている奴なんかいやしない。


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