先を生きるもの-5
裏路地を出て、雨は本格的に降り始めた。行き交う人々は、各々に走り出す者もいれば、落ち着いて祭りを楽しむものもいた。
「田原君?」
後ろから声をかけられたので、振り向いてみると、そこには最悪な人物がいた。
「どうしたんですか、こんな雨の中?」
俺のクラスの担任は女性らいしいピンクの傘を差して、俺を眺めていた。
「怪我してるじゃないですか!」
そう言って俺に駆け寄ってきた。
「大丈夫ですか? 意識は……」
「問題ないよ」
面倒くさいのに見つかったな……。しかも意識は、って……。こうやって立って歩いているんだからあるに決まってるだろう……。
「とりあえず家に来てください。手当てしてあげますから」
そう言って俺の手を引く。
「いいよ、これくらい!」
振り払おうとしたのだが、痛みのためか力も入らずそれもできなかった。
……いや、待て。こいつ、今なんて言った? 家に来てください、だって?
「タクシー!」
やめてくれ……そんな大声でタクシーを呼ぶ人、俺初めてだ。恥ずかしい……。
タクシーは少々驚きながら車を止める。
「えっと……ここへ向かってください!」
免許証を取り出しながら言う。あんた、もしかしなくても、自分の住所覚えていないのですか?
「あいよー」
タクシーは気の抜けた声でそう言うと、混雑している道路をゆったりと走り出した。
あぁ……俺、これからどうなるんだろうな。