先を生きるもの-13
季節は秋。受験生にとっては、戦争が始まる。
この季節からは、自分の得意とする分野を延ばすことに専念した。
夏休みの間に、先生と共に苦手分野をなんとか克服し、模試でも六割は取れるようになった。
先生はこれでも充分だと言っていたが、俺はまだまだ足りないと思っている。最低でも七割以上は取っておかないと安心はできない。そして得意分野では満点近くをキープしておかないといけない。
そんなある日。俺はいつも通り、土曜日の夕方に先生の家を訪ねた。
「いらっしゃい、義一君」
ドアを開けて、優しく微笑んでくれる先生は、何回見ても飽きない。
そして、いつも通りに写真立ての一つを、かたんと倒す。
「先生、この男の人、誰なの?」
「えっと……友達です」
嘘だな。もしかしたら恋人かな……?
「恋人ですか?」
「……いいえ。恋人といえるものではありませんでした」
悲しみを含んだ笑みを浮かべ、そっと写真立てを元のように立て直した。
「彼のこと、知りたいですか?」
「そうだね……興味はあるよ」
「わかりました……話しましょう……。とりあえず上がってください。お茶を淹れますから」
「ありがとう」
靴を脱いでリビングに向かい、いつものところに腰を下ろす。先生はというと、キッチンに向かって、こぽこぽとお茶を淹れている。
「なんか、今日はずっと暗かったけどなんかあったの?」
そう。先生は今日ずっと元気がなかった。まるで魂でも抜かれたかのように弱々しく、儚かった。