先を生きるもの-11
「なんで抵抗しない」
「……わかって……ますから」
「何がだ!」
「あ……たは、やさ、しい人だって。きっと……彼……よ、に」
一瞬で手を離す。自分の両手にまだ感触が残っている。まだ両手は赤くて、震えている。この手で……俺は。
「私は知っていますよ……あなたは、とても優しい人です。クラスメイトが悩んでいると、遊びに誘って元気付けたり、みんなを笑わせたり……」
首もとを押さえ、何度も咳払いしながらあいつは言った。
「それは……利用しているだけだ。恩を売っておけば、あとで得するから……」
「いいえ。それはあとから付けた理屈です。気恥ずかしいからそう思おうとしているだけです」
やめろ……。俺を見透かさないでくれ……。
「あなたは、きっと、とても優しいから」
なんでだよ……なんであんたはそんなに真っ直ぐなんだ。なんでそんなに人間を見ることができる。こんな汚い人間なのに。俺は、こんなに汚いのに。どうして……?
「大丈夫です」
「なんでだよ……俺は、こんなにも、汚いのに」
「あなたはとても綺麗ですよ」
融和な笑み。俺の中の氷を全て溶かすように、暖かく、太陽のような。
「先生……」
「はい」
「俺は、教師になりたい」
あなたのように、導けるような教師に。偽善でもなんでもなく、一人の大人として、生徒と接する教師に。
真っ直ぐに、純粋に、迷うことなんてなく……俺は……。
「はい」
とても、愛おしい笑みだった。
「成績は優秀ですから、何も問題はありません。それに……」
一呼吸おいて。
「あなたは若いという苦しみを知っていますから」