愛を囁くよりも先に…加藤美緒の秘め事…-5
俺は嘘をつきたくなかったから、
「社長の話ですよ」
と正直に言った。
「何の話をしたのよ?」
社長は冗談を言うようにそう言うから、俺もつい微笑んでしまう。
「『純をよろしく頼む』って言われたんですよ」
俺は鞄の中にノートパソコンをしまった。
本当は真っ先に加藤さんの秘めた思いが頭の中に浮かんだのだけど。
「美緒ってそんなに心配する人だったっけ」
…心配する、というか社長を思うがゆえ。
俺はそう言いたかったけど、唇を噛むようにして何も言わなかった。
社長にどんなことがあったのか知らないけど、加藤さんの言い方からするとそんな簡単なことではないのは当たり前だ。
「――俺、帰りますね。失礼します」
これ以上話を延ばすと、変なことまで話してしまいそうで怖かったから。
俺は無理矢理話を終わらせ、立ち上がる。
「気をつけてね」
そう言って笑った社長ですら、今の俺にはなぜか不安になる要因な気がした。
・・・・・・・・・・・・
「んっ…もっと…あ…!」
ここはとあるホテルの一室。
声の主は、加藤美緒だ。
「今日、どうしたんだよ?」
「いいから…無理矢理、して…」
加藤がそんな風に言うことは滅多にない。
いつも自ら男性をとりこにして。
男性の体を知り尽くしているかのように、快感に導く。
「お前がそんな風に言うなんて…珍しいな」
「いいからっ…あっ…」
男は加藤の脚の付け根に顔を埋める。
ビクン!と大きく加藤の体がうねった。
「いいのっ…!」
(あたし…アキ君に自分の思いを聞いてもらいたかったんだろうか)
金澤が三沢に思いを寄せているという受け入れたくない事実がありながら、心のどこかで――自分と三沢が似たもの同士だと思っていたのかもしれない。
目的は違っても、守りたい、という思いは同じだと。