愛を囁くよりも先に…加藤美緒の秘め事…-4
「この滴、見て。ぽたっ…てさ。こんな風に泣くの。何で思いっきり泣かないんだと思う?」
「社長の泣いてるところは見たことがないのでわかりませんね…」
「そう…。あたしはね、一度だけ純が声を出して泣いたとこを見たことがあるの。それから純一筋ね…」
もう、加藤さんのグラスの中には氷しか残っていない。
加藤さんは「もう一杯、同じもの」とカウンター越しにバーテンダーに言う。
「純一筋…って好きなんですか?」
「――好きよ」
ズキッと俺の胸にその言葉が突き刺さる。
その『好き』の言い方は友達として、なんていう重みではない気がしたから。
「純のプライベートなことだから、こんなこと言っちゃいけないのかもしれないけど――初めてあたしの前で声を出して泣いたとき、あたしは純のことを慰めた。
あたしの『体』で、ね…」
「え…加藤さん…?」
「ただ、大事な友人を慰めようってただそれだけだったはずなのに。いつの間にか…ね。
…純があたしにすがりついてきたのは、それ以来なかった。それからも純とそういうことをしたけど、純は心を開いてはくれなかった。
あたしでも、だめだったってことね。
――びっくりした?」
「びっくりっていうか…」
何と言っていいのかがわからない。
それが本音。
「恋愛感情かどうかわからないけど…もっと大切な何かかな。とにかく、大事にしたいの。
…辛かった。純が、まともに男の人を…しかもアキ君のこと好きになったって知ったときは。祝福したけどね。純が恋愛するなんて思わなかったから」
加藤さんはグラスを持つと、グラスの中を見つめる。
静かすぎて、グラスの中の氷がカラカラと鳴る音が聞こえてきた。
「あたしじゃ、無理だって思い知らされたんだから…頼んだわよ。何があっても、絶対離さないであげて欲しい…
離さないって約束して欲しいの」
「加藤…さん…」
女性が女性を好きになるという気持ちは今一つよくわからないけど。
社長のことを守ってきたのは一緒なんだと思った。
俺が男を追い払ってきたように…社長に何があったか知らないけど、加藤さんは必死で守ろうとしてきたんだ、と。
「頼んだわよ」
その言葉の重みを――これから知ることになるなんて、今の俺にはまだわからなかった。
・・・・・・・・・・・・
「昨日は美緒と何の話だったの?」
夜、仕事を終えて帰ろうというとき。
急にそんな話を社長は切り出してきた。
別に、怒っている風でもない。
ただ単に気になっただけのようだ。