愛を囁くよりも先に…社長との秘め事…-9
「先に飲んじゃうよー」
そう言って、ワイングラスの中身を一気に飲み干したのは加藤だ。
――ここは、金澤の家である。
「つーいに、ヤッちゃったんだ。ふふっ、あたしがアキ君にキスした甲斐があったわけね。
…純が、アキ君のこと好きだって気持ちは知ってたんだから、あれ以上手を出すことなんてないわよ?」
「びっくりさせないでよね」
先ほどシャワーを浴び終えたばかりの金澤は、裸の上にガウンを羽織る。
金澤が裸を晒せるのは、たとえ一緒にいる相手が女性だとしても加藤だけだ。
「美緒なりの優しさだって知ってるけど」
加藤の隣に腰をおろし、ワイングラスにワインを注ぐ。
「昨日、キスされたのよ。それもある」
「そんな話、聞いてない!」
加藤は金澤の、まだ濡れたままの長い髪の毛をぐいっと引っ張る。
「怒んないでよ、言う暇なんて――」
そこで金澤の言葉が止まる。
金澤の唇が加藤の唇によってふさがれたから、だ。
「…相変わらずとっさにキスしても何も反応しないのね。純が、アキ君とセックスしたってことは…キスされて反応したんだ?
――安心した」
「美緒…」
「――ちょうど、ユキ君も結婚することだし」
その言葉に、金澤はビクッと肩を震わせる。
金澤の反応に、とっさに加藤は申し訳なさそうな顔で謝った。
「ごめん、でも…もう…」
加藤は心配そうに、金澤のガウンの袖をつかむ。
金澤はそんな加藤の手に、そっと触れた。
「うん…もう、いいの。あたしには三沢がいればいい――」
そう言うと、金澤は下を向く。
そのときに、ぽたりと涙が落ちたことに、もちろん加藤は気づいていた――