愛を囁くよりも先に…社長との秘め事…-4
「なーに考えてんの?」
「えっ、いや…」
見透かされた――そう思いながら俺が苦笑いをして加藤さんの方を向くと、
「…!!」
加藤さんの唇が、俺の唇に触れた。
目を見開いたままだから、加藤さんの伏せたまぶたに生える睫の長さもはっきりとわかる。
だけど、俺はそれがどういう状況なのかわからないでいた。
「――美緒、ミルクティーでよかったー?」
ちょうどそのとき、ドアが開いてそんな声がする。
もちろん社長の声だ。
声の方向に目を向けると、社長と目が合って。
その瞬間、社長はクスッと笑った。
「美緒、いじめないであげて?」
社長がそう言うと、やっと俺の唇から柔らかいものが離れる。
恥ずかしくなって手のひらで唇を拭うと、その手のひらはルージュで赤く染まったようになっていた。
落ち着けと心の中で叫ぶのに、心臓がバクバクと音を立てる。
「で、ミルクティーでよかった?」
「好きだって知ってるから買ってきてくれたんでしょ、ありがとう」
目の前で社長がミルクティーの缶を手渡すと、俺の体は思わずビクッ、と震えた。
社長と加藤さんは何もなかったかのように、そんなやりとりをしている。
「三沢も同じの買ってきたけど大丈夫?」
「い、いただきます…」
俺が手を差し出すと、社長がその上に缶を乗せるようにして置いた。
社長がにこりと笑う。
缶の冷たさが、俺の体の熱さを冷ましてくれる気がした――
・・・・・・・・・・・・
「三沢、美緒が変なことしてごめんなさいね」
加藤さんが帰ったあと、社長がデスクの後ろにある窓の外を眺めながらそう言った。
窓の外では、昨日のように雨が降っている。
「あはは、社長のせいじゃないですよ」
「ううん。美緒は手が早いから場所がここじゃなければ、キスなんかじゃ済まされなかったと思うわ。
それとも三沢は、誰とでもキスするような人ってこと…?」
「え、いや…」
俺はソファーでノートパソコンのキーボードを打っていたのだが――思わず手が止まる。