愛を囁くよりも先に…社長との秘め事…-3
「三沢、風邪ひいてない?
昨日傘も持たずに出て行っちゃうんだもん」
「あ…はい、大丈夫です」
昨日のことがまるで嘘みたいに社長は普通で。
俺はその『普通さ』のせいで仕事に集中できなかった。
そんなとき、コンコン、とノックの音がする。
「あれ。今日、来客予定ありましたっけ?」
「いや、ないわよ。三沢、開けてあげて」
俺がドアに手を伸ばす前に、ドアが開いたので驚いて、一歩身を引く。
「あら、久しぶりね。アキ君」
「うわっ、加藤さん!」
「『うわっ』て何よ、失礼ね」
「美緒!」
社長が席を立ち上がり、飛びっきりの笑顔でこちらに向かってきた。
加藤美緒(かとうみお)は社長と同い年で、服飾デザイナーをしている。
俺は流行はうといからよくわからないけど、結構売れているんだとか。
社長とはとても仲が良く、たまにこうして社長室にやってくる。
加藤さんは…俺が思うに社長と『正反対』の人物だ。
社長が男を寄せ付けないオーラを放っているのに対して、加藤さんは…
髪は短く、大きな目に、厚い唇。
34歳とは思えない体の細さ。
その体の細さには似つかわしくないくらいのふくよかな胸。
そしてそれを強調するように、社長のスーツの着こなしとは違い、シャツのボタンを胸が見えそうなあたりギリギリまで開けている。
「三沢、コーヒーいれてきて。
…って美緒、コーヒーだめなんだっけ。何か外の自販で買ってくるから、ソファー座って待ってて」
「あ、そんなの俺が行きます」
「大丈夫、三沢にも何か買ってくるから待っててよ」
パタパタと小走りで部屋を出ていく社長。
加藤さんがまるで自分の部屋みたいにソファーに座ると、「アキ君も座ったら?」と隣に腰掛けるように言う。
「あ、じゃあ…失礼します」
俺は少し緊張しながらソファーに腰をおろした。
「純と仲良くやってる?」
「あ、はい」
俺は笑ってそう答えるが、昨日のことが頭をよぎる。
――昨日、何であんなことをしてしまったのか。