Unknown Sick-9
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暗い、暗い闇の中。体は自由が利かなくて、意識は朦朧としている。たぶん俺は夢を見ようとしている。この暗闇は、夢に行くための通路だ。
だが、いくら待っても明るい夢へと移らない。おかしいな、と思った。別に夢を見たいと思っているわけではない。ただこの闇が嫌いなだけだ。何もかも飲み込んで、俺の姿すら見えない暗闇。感覚が麻痺する。やばい、と思った途端に声がする。
「さ……せ…………」
意味がわからない。言葉になっていない。理解できない。
「先に……か………」
なんだろう。この言葉は昔に聞いた覚えがある。懐かしい、昔。
瞬間、暗闇が一瞬で晴れる。目の前に広がるのは、黄金の夕日。そして、それを眺める俺と……雅也だった。
「先に……た……ど……だ?」途切れ途切れの雅也の言葉。
昔の自分の家。自分の部屋のベランダ。何気なく夕暮れを見ようと、ベランダにいたあの日。それは、遠い思い出。
「そうだな。俺の方からかもしれないな」
違う。俺じゃあない、
何が?
俺からじゃあない。
何が?
違う。
何が?
違う。
ナニガ、チガウノダッタッケ?
◆
次に視界に入ったのは、見慣れた天井。強すぎる心臓の鼓動。悪夢、だったのか。しかし、それとは違うような気もする。
枕元の時計に手を伸ばす。深夜の零時三十九分。ドアの隙間からは僅かに光が漏れている。
電気を点けたままで眠ったのだっけ。とりあえず二度寝する気にもなれないので、ベッドから降りてドアノブを握る。すると、ドアの向こうから話し声が聞こえた。
きぃ、と小さな音を立てながらドアは開く。
「雅也、藤堂」
「よう、お目覚めか」
「おはよう、まーちゃん」
リビングには見慣れた二人。まだ寝ぼけている頭を回転させ、何故この二人がいるのかを考える。