Unknown Sick-83
「……まーちゃん、行ってきます」
なんだか、彼が墓石に座って、不貞腐れているようにこちらを見ている気がして、口元が緩みました。
「お二人とも、今までありがとうございました」
二人に深い感謝の意味をしっかりと込めて、頭を下げる。
「おうよ」
「気にするな」
雅也さんは、まーちゃんが亡くなってから仕事を辞めて、獣医になるべく大学に通い始めました。でも、相変わらずの派手な髪型や服装は変わらない。
お姉さんは、まーちゃんのことがあってから、自分の会社を、医療機器を専門に扱う会社にしたらしく、相変わらず忙しいらしい。
なんだか、みんな変わらないから、不思議。
「そういや、藤堂。ちゃんと気持ちの整理ができたか」
「はい。いつまでもウジウジしていられませんから」
「そっか」
にんまりと、雅也さんは笑います。そして、おもむろにポケットに手を入れます。
「ほら、これ」
取り出した何かを私に投げます。
「これは……?」
「正和の部屋整理してたら、出てきやがった。几帳面にも俺宛の手紙も一緒だ。お前が落ち着いたら渡してくれって書いてたぜ」
その箱は小さかった。ゆっくりと開ける。
そこには、決して大きいとは言えないダイヤモンドの指輪と、小さな紙切れ。
「何て書いてるんだ、それ?」
「雅也、急かすな。藤堂だって緊張してるんだ」
その紙切れには、彼の字で……。
「結婚してくれ、恵」
彼の不器用さが現れているようで、なんだか気持ちが和みました。
ざぁ、と風が吹きます。その風は、一緒に桜の花びらを運んでくれました。それは偶然にも、私を取り囲むかのように舞って、名残惜しいとでも言いたいかのように、ゆっくりと去っていきました。
終