Unknown Sick-8
雅也は顔を赤くして、大いに笑っている。藤堂は狂ったように大いに笑っている。酒が入っただけでここまで乱れることができるのは凄い。
俺はというと、二人と同じペースで酒を飲み、時々つまみとなるものを作らされたりしていた。
二人が盛り上がっている話の内容は昔話だ。俺と雅也が高校生の頃の話。六年前の高校二年生の頃の話。その話を懐かしむように、恥ずかしがるように、そして誇るように雅也は話す。その話し方のせいで、決して遠くはない過去が、物凄く昔のように感じる。
「懐かしいな、正和」
「そうだな、雅也」
あの頃は、楽しかった。俺が生きてきた人生の中で一番。今だってそれなりに楽しい。だが、どうしてもこの思い出の前では霞んでしまう。まぁ、楽しかったなど恥ずかしくて言えないが。
「お前は俺に付き合って遊んでた、って感じだから楽しくなかったろ」
「どうだったかな。忘れたよ」
「はは、お前らしいや」
この発言が照れ隠しということを雅也は理解しているため、お前らしい、という言葉はまさに的確といえる。
そのやり取りを藤堂は変な視線で見る。そして「なんか、いいなぁ」と呟く。今までの狂いっぷりはどこに行ったのか、今はしんみりとしていた。
「どうした?」
雅也が藤堂の変わりようを心配し声をかける。それにため息で返す藤堂。
「くだらない。言いたいことははっきりと言え」
「うん……。私、高校生の頃にそういうことできなかったの」
何でも高校の頃は家が厳しくて、俺たちがやっていたようなことができなかったらしい。だが、禁止されているのにバイクで登校、しかもノーヘル、スピード違反。授業は単位をしっかり計算した上で、サボる。喧嘩を売られたら買う。次の日学校があるのに飲み会。などなど……このような暴挙を、羨ましいと思うのはどうだろう。
「なんか思いっきり笑った記憶もないなぁ」
またため息をつく。
「これから笑えばいいだろう」
自然と言葉が漏れる。よく考えないで喋るとは、少し酔っているかもしれない。
「正和……」
「まーちゃん……」
二人がほぼ同時に言う。
「眠い。少し休むよ」
そう言って寝室へと向かい、ベッドに倒れこんだ。
どうしたのだろう。いつもならこれくらい大丈夫なのに、今はとても眠い。