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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-10

「なんだよ、寝ぼけてるのか」

 そうだ。バイト帰りに雅也が来て、それに藤堂も引っ付いてきたんだ。

「いや、大丈夫だ」

 いつものソファーに座る。テーブルの上には空の缶が無造作に、乱雑に置かれている。小さくため息をつく。

 二人は何が楽しいのか、俺の様子を観察していた。しかし、それは馬鹿にしているわけでもない。偶像でも眺めるように、そこにあるから見るという態度。それは不快ではないのだが、落ち着かない。

「なんだよ」

「いや、別に」

 雅也がすぐに答える。またため息をついて、俺はベランダに向かう。

「煙草か?」

「まぁね」

「じゃあ俺も」

 立ち上がる。それに続こうと藤堂も立とうとしたが、雅也は「二人で話がしたいんだ」とだけ言って、藤堂の行動を制止した。

 雅也の表情は真剣だ。このような表情をする雅也を見るのは、久しぶりだ。

 ベランダに出ると、昨日より少しだけ太くなった月が俺たちを迎える。つい三時間前に見た月よりも光って見える。しかし星の弱々しさは相変わらずだ。

 煙草に火を点ける。ちりちりと小さく鳴る。深呼吸するように煙を吸い、同じ要領で煙を吐き出す。雅也はその一連の動作を見ると、椅子に腰掛ける。左手に煙草を持ちながら、俺も椅子に腰掛ける。

 お互いリビングに背を向け、並んで座っている。雅也は何も言わずに、ただ夜空を眺める。

「話があるんじゃないのか」

「いや、別に」

 話があるから来たのではないのか、と言葉にしかけたが、飲み込んだ。友人と二人して夜空を見上げるのも、まぁ、悪くない。

 相変わらず静かな夜は、時間の流れを狂わせる。僅かな時間も長く、長い時間を短くする。

 煙草をスタンドタイプの灰皿に押し込む。最後に足掻くように煙草は煙を多く出した。臭いが鼻に付く。

「くせぇ」

「仕方ないさ。煙草だからね」

 たった一言の会話。でも沈黙を破るには充分だった。

「覚えているか、雅也。高校二年生の頃」

「さっきまで話してた内容を忘れるほど、ボケてないぞ」

 口元を少しだけ緩ませた雅也を横目に、話を続ける。

「……汚れているよ。この世界も、俺も」

 演技をするように、雅也に言う。それに同意するように、雅也も似たように返す。


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