Unknown Sick-80
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それから、俺の容態は急変した。延命処置が施されたものの、気休めのようなものだと医者が姉さんに告げていた。姉さんは、何とかならないのか、金なら何とかする、弟を助けてくれと何度も言っていた。そんな俺の横で、藤堂と雅也が落ち着かない様子でそこにいた。
「正和、お前、しっかりしろよ! これから藤堂と一緒に暮らすんだろ? なぁ……おい!」
あぁ、沈んでいく。周りには医療機器がやかましいくらいに鳴いている。俺は死ぬのか。このまま、何もあいつに伝えられないで、死んでしまうのか。そんなの嫌だ。最後でいいんだ。これだけ言えれば満足なんだ。頼むから、動いてくれないか。ほんの少しの時間でいいんだ。
「正和……!」
悲痛な姉の声。
「まーちゃん!」
悲痛なあいつの声。
最後に悲しませてすまないと思っている。でも、大丈夫。お前なら、きっと強く生きていける。
「と……う」
周りの医療機器は相変わらずピーピー煩い。
動け、動け、動け、動いて……くれよ。神よ、いるのなら、最後だけ、祈ってやる。奇跡を、俺に与えてくれ。最後だけでいいから!
瞬間、体が嘘のように軽くなる。その瞬間を俺は見逃さない。
半身を起こして、藤堂を抱きしめる。両目からは涙がぼろぼろと流れる藤堂に、そっと、耳打ちする。
「俺のこと、忘れないでくれ……そして」
言えた。もう満足だ。死んでもいい。藤堂、姉さん、雅也……今までありがとう。もう、お別れだ。本当に、ありが……とう。