Unknown Sick-78
「そこなんです。脳は検査の結果何も問題ありません。しかし、?その脳自体が既に異常だったら? 脳が信じられないほど正常を保ち続けるという異常だったら? かなりややこしくなります」
つまりは、脳が既に異常であり、それに連動して体が異常になったかもしれないということか。だが脳は正常であると検査で裏づけされている以上、無闇にいじる訳にもいかない。八方塞がりだな。
「何度も言いますが、これは仮説です。もっと違う原因があるかもしれません。全力で検査を続けます」
「よろしくお願いします……」
医者は病室を出て行った。
「?Unknown Sick《アンノゥンシック》? 知らない病気か」
医者が出て行って、少ししてから口を開く。
「正和?」
「この病気の名前、これがいいんじゃないか?」
「今はそんなこと……」
「これでいい……」
瞼を閉じる。ゆったりとした闇が俺を飲み込んだ。
◆
もう入院してから何日経ったかもわからない。それでも俺は生き続けている。
「調子はどうだ?」
姉は俺の横に椅子を置き、座っていた。いつの間にいたのだろうか……。
「問題……ないよ」
朦朧とする意識の中、姉に言う。
「そうか……。藤堂は今日来れないらしい」
「そうなんだ……」
あいつが来ないなんて珍しい。いつも学校があろうとも必ず来ていたのに。
「すまないな、休んでいたのか」
「気にしないで」
もう、休んでいるのか起きているのかもわからないんだ。
「そうか……りんごがあるが、食べれるか?」
「いらない」
短い言葉でしか返すことができない。本当はもっと話したいんだ。会社は相変わらず好調なのか、無理をしていないのか、雅也とは最近どうなのか。