Unknown Sick-74
結局渡せないんだな。いや、今からでも遅くはない。俺が……生きていたらちゃんと自分から渡そう。この病気が治って、藤堂と一緒になれたら渡そう……。
固い決意をして、それを元あった場所へと戻した。
「終わったよ」
チャイムも押さずに、藤堂の家に入る。
「これで全部か?」それに少しも驚かず姉は冷静に言う。
「あぁ、こんなものでいいだろうさ」
「私はこれを車に積んでくる。三十分後には出るからな」
そう言って姉はリビングから出て行った。姉がオレと藤堂に残してくれた時間を有効に活用しなくてはな……。
「学校があるからお見舞いは少し遅くなるよ」
「問題ない。朝来られても面倒くさいしな」
「まーちゃんは寝起きが悪いもんね」
藤堂……ごめんな。俺でなければ良かったのにな。そうすればお前が悲しむこともなかった。俺でなければ……。
「私、まーちゃんと結婚する頃には学校を卒業してるね」
藤堂は俺の方を向かない。外の景色を眺めていた。
「そうしたら、魅惑の女教師だね」
声が微かに震えていた。
「そんな私を独占できるんだから、まーちゃんは幸せ者だね」
「……そうだな」
どうすればいい……? お前を悲しませなくするには、俺はどうすればいいんだ。こんなお前の姿を見たくないんだ。
「まーちゃんはどこにも行かないよね」
病院には行くがな」
「私を置いて、一人でどこかに行かないよね」
「お前を置いては行かないな」
頼む、泣かないでくれ。オレまで泣きたくなるから。
藤堂は振り向いて、オレの胸へと飛び込んできた。
「絶対だよね? 私を一人になんてしないよね?」
「…………」
「ねぇ、答えて……お願いだから」
ごめんな。答えることはできない。俺の体はもう駄目だから。たぶん……俺は死ぬ。お前を置いて死ぬ。
「行こう、姉さんが待ってる」
藤堂の問いに答えずに、部屋から出るように促した。
「答えてよ……まーちゃん」
藤堂を何も言わずに抱きしめた。絶対なんてことはない。でも……もしも生きていたら、お前を幸せにするから。だから……待っていてくれ。
「答えてよぉ……」
藤堂の悲痛な声が、俺の胸に突き刺さった。