投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

Unknown Sickの最初へ Unknown Sick 68 Unknown Sick 70 Unknown Sickの最後へ

Unknown Sick-69

両親が他界してからというもの、姉はいつも俺のことを気にかけてくれた。俺が欲しいと思うものは何でも買ってくれた。会社の経営もある程度軌道に乗っていたため、金にかんしては苦労しなかった。

 姉の気持ちはとてもありがたかったが、あの頃の俺にとっては、意味がなかった。何かをいつも渇望していた。意味もなくバイクを走らせたこともあった。意味もなく他人を傷つけたこともあった。だが何も俺を満足させなかった。

 やがて高校では進路を決めなくてはいけない時期になり、姉に相談したことがあった。本州の大学を受けることは決めていたし、一応理系に身を置いているので、学んでいることが役に立つ道が良かった。

すると、姉は真剣な顔つきで「医者になれ」と言った。

どうして医者なのか俺にはさっぱりわからず、姉にすぐに聞き返した。すると姉はすぐに答えてくれた。

「私たちは失う悲しみを知っている。だが、この悲しみはできるだけ味あわないほうがいい。だから、お前は医者になって他の人を助けろ」

 その言葉だけで、俺は医者になることを決意した。楽な道ではない。わかっているさ。でも……失う悲しみは誰も味わない方がいいに決まっているから。だから俺は医者になる。そう決めた。

「まーちゃんなら有名なお医者さんになれただろうね」

「知るかよ。俺は……」

命を救いたかっただけだ。偽善とか、自己満足なんかじゃない。ただ、それだけを思った。それは儚い夢だった。

「何考えてるの?」

「なんでもない」

いけないな……もうこいつの前では弱音は吐きたくない。こいつといるときは……いるときだけは後ろ向きになっちゃいけない。

「まーちゃん……辛かったら何か話して」

「いいんだ。ちょっと昔のことを思い出していただけだ」

そう、昔のことだ。今は何も関係ない。儚い夢だったけど、今は幸せなんだ。藤堂が、姉さんが、雅也が、みんなが側にいてくれて……。

「人はね、辛いことは吐き出したほうが楽になれるんだよ」

「オレは……辛いことなんてない。お前と一緒にいれるんだから」

「またそうやって誤魔化して。まーちゃんの悪い癖だよ。そう言ってくれるのは嬉しいんだけど、弱音も吐いて」

そんなこと言わないでくれ。俺はお前を悲しませる気なんてないんだ。これ以上俺のことを話して、お前が悲しむのを見たくないんだ。

「私なら大丈夫だから」

ありがとう。でも……やっぱり駄目だ。

「もうこの話は終わりだ」

「……わかった。じゃあまーちゃんの昔話を聞かせて」

「……面倒くさい奴だな。次はお前から話せ」

「わかった……」

 あまり表情は浮かない。そういえば、高校時代まで、あまり笑ったことがないと言っていた。


Unknown Sickの最初へ Unknown Sick 68 Unknown Sick 70 Unknown Sickの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前