Unknown Sick-70
「すまなかった。無理して話さなくていい」
「ううん、聞いてほしい」
藤堂の家は代々有名な家系で、しきたりというものもあり、それは厳しかった。藤堂家に生まれた男児は、その時代において有力な会社に勤めなくてはならず、結婚相手は親が選ぶそうだ。また、女児も同じく有力な会社に勤めることが義務とされており、親が結婚相手を見つけ次第、寿退社ということになるらしい。しかも女児に限り、礼儀、言葉遣い、容姿、全てにおいて完璧でなければならない。その窮屈さに嫌気が差していた藤堂は、今後一切の関係を断つことを条件に、家を出た。今では、親は生活に必要な金を送るだけらしい。藤堂は一族の中で、劣等者、落ちこぼれ、臆病者の烙印を押され、忌み嫌われた。今でこそ、どうでもよくなったらしいが、昔はとても気になっていたと語った。
藤堂が選んだ道は教師になることだった。教師になり、子どもに自由の素晴らしさ、自由に伴う責任を教えていきたいとのことだ。その思想は立派だとは思うが、何故高校教諭なのかが少し疑問に思った。
「高校生くらいのときが一番悩むと思うから」
藤堂はあっさりと答えたが、どうも少し悩んでいるようだ。オレにこいつの背中を押す権利などない。だが、少しだけでも支えてやることができる。
「悩むな。お前が選んだ道なんだ。ない胸を張って行け」
「ない胸は余計です。さっ、次はまーちゃんの番だよ」
「また俺か……」
「文句言わないの」
俺は……中学までは普通で、高校くらいからほんの少し変わった。俺の周りに人が集まるようになった。雅也とは中学のときはあまり仲良くはなかった。お互い特に介入しなかった。同じ高校に入り、同じクラス、なおかつ俺が通っていた中学からこの高校に入ったのは、俺と雅也だけということもあり、雅也からよく話しかけてきた。最初は雅也のことが邪魔に感じた。いつも俺に付きまとい、何かと遊びに誘ってきた。社交辞令と思い、仕方なく付き合っていたが、段々と嫌ではなくなった。
「親友との出会いってやつだね」
「どうだか……」
偶然にも同じ部活に入った俺たちは、よくつるんだ。不良まがいのことも沢山したし、些細なことも本当に楽しかった。
「そして、卒業して今に至る」
「進学を考えていたんじゃないの?」
「ちょっとした事情でな、全部落ちたんだ」
「ごめん……」
「気にするな、昔のことだ」
「うん……」
少々空気が重い。
「あの丘に行かないか」
「まーちゃんがどうしてもって言うならいいよ」
「お願いできませんか、お嬢様」
「仕方ないなぁ」
手のかかる奴だ……。