Unknown Sick-66
「焦げますよー!」
藤堂が不機嫌そうにこちらへ叫んだ。
「行こう。これ以上待たせると、あいつにも殴られるかもしれない」
そう言うと、二人は心底楽しそうに笑った。
さて、俺たちは秋の浜辺で焼肉をしていたのだが、今は我が家で飲み会ということになっている。
食うだけ食った後、雅也と姉が酒を飲みたいとわがままを言ったことに起因している。
「二人とも仕事は大丈夫なのか」
缶ビール片手に目の前の二人に言う。
「俺は明日風邪の予定なんだよ」
「私は明日休みをとった」
……準備はできているということか。
「私は……」
「お前は明日学校をサボる予定だろう?」
「……うん」
言いたいことを先に言われたのが不満のようだ。やれやれ、少しだけでも機嫌をとってやろう。
「俺はサボってくれて嬉しいがな」
藤堂にしか聞こえないように小さく言う。それを聞いた藤堂は嬉しそうに頬を赤に染める。
「ひゅー、まーちゃん言うじゃない」
「惚気はやめろ、私への当てつけに感じる」
二人とも、なんと都合の良い耳をお持ちだろうか。
「くだらない」
ビールを一気に飲み干した。
しばらく忘れていた、楽しいという感情。内容はいつもと変わらない。酒を飲んで、馬鹿みたいにみんな笑って、色々な話に華を咲かせる。ただ一つ違うのは、今回は俺もその輪に上手く入れているだけ。それと、俺と藤堂が付き合っているということだけ。
まだ夕方の四時辺りなのだが、外はうっすらと暗い。
「正和、煙草に行かないか?」
「は?」
「ベランダで煙草を吸わないかって言ったんだよ」
「雅也、吸い始めたのか?」
「おかげさまでな」
戸を開けると冷たい風が俺と雅也を出迎えた。風はひゅうひゅうと寂しく泣いている。
もう俺を呼ぶ声はしない。風は俺から手を引こうとしているらしい。
「見ろよ」
雅也が俺と同じ銘柄の煙草を吸いながら、外を指差す。俺はその方向に顔を向けた。
真っ赤な夕陽が地に飲み込まれていく。見方によっては哀しい。