Unknown Sick-65
あそこを藤堂に任せて大丈夫だろうか……。朝に、あいつの料理の下手さを見ているせいか、少し不安だな。
「本当なのか」姉は言う。
「何がさ」
「藤堂と付き合う、というのがだ」
「本当だよ」
雅也と姉の表情は固まっている。そこまで俺があいつを選んだのが意外なのだろうか。
煙草に火を点ける。
「唐突だな、正和。言いたくはないが、お前は……」
「わかってるさ。でも、いいんだ。俺は、あいつと一緒に生きたいと思う。生きるために努力してみせる」
「楽な道ではないだろう。それでもいいのか? 藤堂を悲しませるかもしれないんだぞ?」
「それでも、生きてみせる」
あいつと一緒に歩いていきたいと思う自分が、ここにいるから。歩みはとても遅くて、あなた達から見ていて苛々するかもしれないが、いいんだ。今まで駆け足だった分、ゆっくりと歩きたい。今まで見逃していた自分や、周りの優しさ、想い、強さ、全てを見たい。そして、もう一度、自分を確かめたい。
「一体あいつはどんな魔法をお前に使ったことやら……」
少しだけ、悲しそうな顔だった。でも優しくて、こちらまで嬉しくなる顔。
「この世に魔法なんてないさ」
ふぅ、と煙を吐き出した。
「ところで二人とも……怒ってないのか」
「何にだ?」「何がだよ」姉と雅也が同時に言う。
「言いにくいんだが……俺は二人にひどい仕打ちをしていると思っている」
二人は表情を見合わせ、小さく頷いた。
すると、雅也は振り返ると同時に、俺を一発殴る。
「俺はこれで済ませてやる」
偉そうに雅也は言った。
「そうか……」
右頬が痛い。
すると次は左頬に姉の平手が飛んできた。
「私はこれでいい」
じんじんと痛む。
「そう……かい」
両の頬が痛い。
「これだけで許してもらえるんだ、ありがたいと思え。俺たちは優しいだろ?」
……そういうことにしておこう。余計なことを言うと、利子を支払わなければいけない気がする。
「しかし……お前が藤堂と付き合うとはな」
姉が心底不思議そうに言う。