投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

Unknown Sickの最初へ Unknown Sick 63 Unknown Sick 65 Unknown Sickの最後へ

Unknown Sick-64

「肉は……」

「まずは野菜だ、正和」

「どっちでも変わらないだろう」

「私は野菜が食べたいんだ」

 姉に指示されたとおりに、野菜を中央に置き、肉を隅に少しだけ置く。ついでに煙草に火を点けて、焼きあがるまでしばし待つ。

 各々が好きなことをしている。雅也は携帯電話をいじり、藤堂は姉に飲み物を注いでいる。そして、姉は藤堂に飲み物を注がせながら、携帯電話で仕事の話をしていた。

「ふふ……」

 何故か笑みがこぼれた。お互い会話を挟まずに、皆が好き勝手なことをしている。普段ならなんとも思わないようなことで、笑ってしまうとは思わなかった。

「なんだよ、正和。俺らは何も面白いことをしてないぞ」

「いや、なんでもないんだ」

「意味もなく笑う人間じゃないだろ、お前」

「はは、そうだな。その通りだ。すまない」

 じゅっ、と短い音がする。

「そろそろいい頃だ」

「ふぅ、野菜はどうだ」電話が終わった姉が、やれやれとでも言いたげな表情で言う。

「そんなに野菜が好きなのかい、姉さん」

「いいや、そうでもない」

「そうかい」

 食のことになると、今までばらばらだったみんなが、一斉に金網を囲う。また面白くて笑いそうだ。

「あぁ、そうだ。俺は藤堂と付き合うことにした」

 ピーマンを一つ食べる。

「……なんだ、脅迫でもされたのか?」雅也が茶化すように言う。

「そんなところだ」俺も茶化すように返す。

「そんなことない!」藤堂が強く否定した。

 短い会話をはさみつつ、俺たち三人(姉は何も話さずに既に食べていた)は焼けた野菜を我先にと自分の皿へと運ぶ。

 食欲が人間の三大欲求の一つとは言っても、いくらなんでもこれはないだろう。数分で野菜がなくなった。野菜だけしか焼いていないとはいえ、随分速い。

「みんな早いな」

 俺はせっせと新しい野菜と、ようやっと肉を網の上に置く。

「正和」姉が網を見ながら言う。

「何さ、姉さん」

「ちょっと、来い」

「俺も行きます」雅也が俺をちらと見て言う。


Unknown Sickの最初へ Unknown Sick 63 Unknown Sick 65 Unknown Sickの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前