Unknown Sick-62
九 夢幻
何日かぶりに、穏やかに眠れた。何も考えず、ただ休んだ。カーテンの隙間から、太陽の光が遠慮気味に差し込んでいる。軽く背を伸ばし、カーテンを開ける。今まで遠慮していた光が寝室を白く染める。その光を体全体に浴びて、ゆっくりと呼吸する。嘘みたいに体調が良い。気の持ちようだけで、ここまで変わるものなのかと実感する。
「やっぱり秋はいいな」
寝巻きのままでリビングへと向かう。台所には、あいつがいた。
「あ、おはよう」
「あぁ」
あいつもまだ寝巻き姿だが、その上からエプロンを巻いている。
「今日は和風です」
「言われなくてもわかる」
ソファーに座って、煙草に火を点けた。
「肺は真っ黒だね」
「肺だけだ」
「腹まで黒かったりして」
「ふん、くだらない」
藤堂は小さく笑うと、鼻歌を交えながら料理を続ける。だが、鼻歌があまりにも下手だ。
「おい」
煙草を左手に持ちながら、台所に向かう。
「下手な鼻歌はやめろ」
「料理しながらなんだから、仕方ないじゃん」
味噌汁は……まぁ、いいな。しかし、フライパンの上に乗っているものはなんだろう。
「なぁ、これはなんだ」
「ベーコンエッグ」
「どう見てもスクランブルエッグだろう」
「途中で失敗しちゃって」
どう失敗すればそうなるか気になるが、食えればいいか。
「はいできました」
盛り付けなどを手伝い、それをテーブルに運ぶ。
「ところで、何分かかったんだ」
「三十分くらいかな」
一人暮らししているのに、料理の腕は良くないらしいな。
「ねぇ、今日はどうする?」
「どうするって、なにがだ」
スクランブルエッグを食べる。ざりっ、とした感触。