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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-6

二 普通





 いつものバイト帰り、俺は自販機の前にいた。

 煙草を買おうとしたのだが、どうやらタスポとかいうものに、俺の予定を狂わされたようだ。

 そういえば今年からだったか。そう思いながら深くため息をつく。すると、後ろから急に声をかけられた。

「よう、まーちゃん」

「雅也、その呼び方はやめろ」

「いいじゃんよ」

 長いとも短いとも言えない茶髪が、重力に逆らって上に立っている。顔立ちはよく、彫りが深い。伊東雅也《いとう まさや》。俺と小学校、中学校、高校、全てが一緒だった腐れ縁の人物がそこにいた。

「暇だろ?」

「まぁね」

 簡単に返事をして、雅也に背を向け歩き出す。雅也は何も言わずに俺の背中を追いかける。

「まーちゃん」

「雅也」

 大きくため息をつきながら振り返る。藤堂の呼び方は嫌いだ。それを知っていて真似をする雅也は性格が悪い。いや、性質が悪い。本来ならこんなことをする奴は一発殴るか、無視するのだが、雅也がすると不思議とそういった気にはなりづらい。だが、許せないこともあるのも確かだ。

「やめてくれ。そんな呼び方をするのは藤堂だけで充分だ」

「嫌だね。せっかくお前が女と仲良くなったんだ。存分に楽しませてもらう」

 とんでもない奴だ。

「しかも三歳年下、童顔、スタイルは悪くない。このロリコンめ」

 頭が痛くなる。なんでそんなことを平然と言えるのか。少なくとも今の発言で俺は気分を害した。

 俺が不機嫌になるのが面白いのか、雅也はまだまだ続ける。

「いやいや、高校生の頃は冷静沈着で成績優秀、容姿端麗、しかも喧嘩は最強。誰もが羨むまーちゃんは、なんと年下の天然好きだった。これはたまらない、面白すぎる。そうか、そりゃあ同学年には興味などある訳ない、だってロリコンなのだから」

 おっと、なんだろうな。今、頭の中でプツッ、と何かが切れたような音がした気がするヨ。どうやらこの茶髪の似非ハーフは、俺を本気で怒らせたいみたいだネ。さて、そろそろ黙らせてあげないとネ。

「どうやら煙草の火を押し当てられたいみたいだな、雅也。どこがいい。目か、腕か、それとも額か」

「勘弁してくれ」

 一瞬で空気は元に戻った。不機嫌に煙草の煙を吐く。

 それから雅也は何も話さない。雅也に限って、怒っているということはないだろう。ただ、この夜があまりにも静かで、その静寂を壊したくないと思っているのかもしれない。ちょっと前までは散々壊していたが。


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