Unknown Sick-5
「やめるんだ、正和《まさかず》」
細く煙を吐いて、さっき姉に手渡された酒を開けた。それを一口飲み、煙草を口元に戻す。
「正和!」
「うるさいよ」
勢いで立ち上がった姉は、言うことを聞かない愚弟の煙草を取り上げた。そしてそれを灰皿に押し当てた。
「私は真剣に言っているんだ」
「俺もだよ。俺は自由に生きるって前に言っただろ」
「……まだ恨んでいるのか」
「まさか」
高校生の頃にされた仕打ちなんて、一種の洗礼と思って受け止めているさ。くだらない大人たちの、くだらない報復だ。
「急激に成長した姉さんの会社に対する嫉妬から、俺に八つ当たりしたかったんだろ。だから俺は受けた大学に全て落ちた。いや、不思議なものだよ。自己採点ではほぼ満点、評定平均は文句なし、マークもしっかりした、二次試験もちゃんと受けたのに、何故か不合格なのだからね」
どうやったのかなんて興味はない。姉の会社は大きい。だからこそ敵が多いのだろう。その中に大学の重要ポストと繋がっている奴もいるだろう。ただそれだけだ。俺がこの世界の仕組みを知るのには充分すぎるほどの洗礼だ。
だから、もういいんだ。この世界は俺には合わない。
「正和」
「もう、いいんだ」
なるべく穏やかな笑顔で、姉に早すぎる別れのような言葉を送った。