Unknown Sick-59
「でも、それは違うよ」
やめろ、やめろ……。
「まーちゃんはお姉さんを女性としてみているわけじゃない。強いお姉さんに惹かれているだけ。その気持ちを愛しているって勘違いしているだけ。たぶん、まーちゃんは他人を、本気で好きになることがなかったから、わからなかったの」
がらがら、と何かが壊れる音がする。今まで作っていたものが、今度こそ完全に壊れた。もう無視することもできない。
汚い自分がそこにいる。矛盾した自分がここにいる。何もかもの支えを失って、俺はこの世界にいる。
どうすればいい。自分を証明できない。何も……俺には残されていない。ただの勘違いだってこともわかっていた。既にそれは結論が出ている。それでも、この想いだけは、間違いないものだと信じていたかった。かまってくれるから、とかじゃなくて、本気で愛していると思っていた。
「くだらない……くだらない……」
「本当にね」
藤堂の口調は穏やかで、まるで親が子を諭すようだった。
「でもね、そこで終わる必要なんてないと思う。無くなったなら、作ればいいと思う」
「よく、そんなことが言えるな……」
心臓のリズムは……心のリズムは乱れ続ける。
「自分で壊しておいて……作ればいい、だと? ふざけやがって……」
「私、もう待たない」
「何を……」
「きっと、話してくれると思って待ってた。まーちゃんが私に、病気のこととか、話してくれると思ってた。でも話してくれなかった」
なんで知っている……。
「お姉さんがね、教えてくれたの。まーちゃんの病気のこと。いっぱい苦しんでるって、教えてくれた」
大きな瞳から、涙を流す。ぽろぽろぽろぽろ、大粒の涙は尽きない。
「だから、少しでも力になりたい……」
嘘だ。嘘に決まってる。みんなそうだ。言葉でごまかしているに違いない。
「お前に何ができる……」
「……」
「お前にこの苦しみを理解できるか。お前に俺を救えるか。お前にこの病気を治すことができるのか。お前なんかに……お前みたいな矮小な人間に、俺を救えるって言うのか!」
救えるわけない。救われるわけがない。俺は死ぬ運命だ。もう失うものはない。この世界に未練なんてない。だって、何もかも壊れ果ててしまったのだから。
こんな女の言葉に踊らされ、乱されている自分が情けない……。
藤堂は涙を流しながら、ほんの少しだけ口元を緩めた。そして、ゆっくりと瞼を瞑り、小さく深呼吸する。
「私は医者じゃないから、病気は治せない。でも、きっとまーちゃんを救えることができる」
「俺の救いは、この病気が治ることなんだ! それ以外の救いなんて存在しない!」
本当にそうなのか?
自分が問を投げる。