Unknown Sick-58
「……あれはまーちゃんが本当にしたかったわけじゃないって、わかってるから」
「くだらない。わかったふりか」
藤堂は小説から手を離し、寝そべっている体勢を元に戻した。
「私はまーちゃんのことがわからない。まーちゃんは自分を覆い隠して、他人に何も理解させないようにしているから。でも、あなたはとても気にしてるの。自分を覆い隠してるのに、他人が気になって仕方ない」真っ直ぐな眼差しで、藤堂は言う。
「くだらないな」
考えるな。こいつの言葉に惑わされるな。これ以上自分を壊しちゃいけない。
「だから話して欲しいの。誰もまーちゃんを嫌いにならないから、大丈夫だよ」
ダイジョウブ。
ダイジョウブ。
ダイジョウブ。
思い出すな。もう何も考えないって決めたんだ。
「やめてくれ」
「どうして……話してくれないの?」
藤堂はゆっくりと立ち上がり、俺の隣に座った。そして、穏やかに笑うと、ゆっくりとした口調で話し出した。
「大丈夫だから……」
「もう、やめてくれ! 俺にかまわないでくれ!」
「まーちゃん……」
「どうして……お前は俺を惑わすんだ。あれだけ傷つけたのに、あんなことをしたのに……」
普通は嫌いになるはずだ。俺なんかにかまう気持ちなんて失せるはずだ。それなのになんでお前は……俺の傍にいるんだ。
「私はあなたが好きだから」
「は?」
「私はまーちゃんが好きだから。出会ってからずっと」
やめてくれ……。
「ちょっと照れくさいけどね……」
照れ笑いをする藤堂。心臓が強く鳴く。
「違う……。お前じゃない、お前じゃないんだ」
お前を好きなわけじゃない。愛しているわけじゃない。俺はずっと姉さんが好きなんだ。それ以外の女性は認めちゃいけない。俺は好きになっちゃいけないんだ。
「私、知ってるよ。お姉さんが好きなんだよね」
やめろ。俺の心を覗くな。勝手に俺の心を言葉にするな。