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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-55

八 一滴《ひとしずく》





 気晴らしのつもりで出かけた本屋で見かけた一冊の本。タイトルは『理不尽な話』というものだ。いくつもの理不尽な話を、色んな作者が書いているのだが……面白くないものばかりだった。

 その本を適当なところに放り投げ、俺はソファーへと横になる。

 頭痛と吐き気、そして天井が軽く回っているような感覚と体が浮いているような感覚がする。熱があるのかもしれない。

 ふう、と細く息を吐く。ゆっくりと瞼を閉じると、闇が回っている。だが、その感覚はあっという間に消えた。その後に残るのは、煩い耳鳴りだった。

 頭が痛くなる。耳鳴りに共鳴するように脳の奥が小刻みに震える。

 そんな俺の体調など関係なく、チャイムが鳴った。無視していたが、何度も鳴り響く。

 重たい体に鞭をうち、玄関へと向かった。

 ドアを開けると、すぐに胸倉を掴まれ、押し倒された。

「おい、どういうことだ正和!」

 雅也はそう言った。何がどういうことなのかも言わずに、いきなりだ。こいつを殴るのには充分な理由だ。

「離せよ、おい」

 雅也のわき腹を骨が折れないように殴る。予想外の反撃に、雅也は俺の上から転げ落ち、殴られた箇所を押さえながら、苦しそうに呼吸している。

 立ち上がり、雅也を見下す。

「何の用だ。出迎えた瞬間に掴みかかる奴を友人に持った覚えはないぞ」

「てめぇ……まー姉に何を言ったかわかって、そんなこと言ってやがるのか!」

 姉さん……情けないな。他人に相談するなんて、本当に愚か者だよ。

「一言一句忘れないで覚えているさ。別にお前が怒るようなことは言ってないはずだ」

「美鈴さんがどれだけお前を大切に思っているのかわかってるのか? そんな人に『殺してくれ』だと……? 甘えるのもいい加減にしやがれ!」

 雅也が殴りかかってくる。

 そんな感情に任せたものが、実際に当たると思っているのか?

「馬鹿だよ、お前」

 雅也の拳をそのまま受け流し、体勢の崩れたところに膝蹴りをいれる。ミシミシ、という嫌な音が聞こえた。

「お前が俺に喧嘩で勝てるわけないだろう」

 倒れかけた雅也の頭を掴み、思い切り玄関から外へ放り出す。

「二度と、俺の前に現れるな」

「正和っ……!」

「失せろ」

 ドアを思い切り閉めた。外では雅也が何かを喚いているが、気にしないようにした。


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