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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-54

 姉を愛している。そんなことはない。俺は自分をかまってくれる者がいるのが嬉しいだけだ。それは愛でもなんでもない。

 いつまでも汚れのない人間でいたい。汚い世界に産まれた人間が純潔を守りぬけるわけがない。知らず、汚れるに決まっている。いや、汚れているのに気付いているのに、あえて目をつむっているだけだ。

 自由な人間。そんなものいるわけが無い。だって自分はこうやって人間の世界に産まれ、人間の輪に加えられているのだ。今更この中から逃れられるものか。

 病に殺される。そんなことあるわけない。病は自身を殺すのではない。病は追い詰めるだけだ。結局生を放棄するのは自分の判断に委ねられる。

誰にも自分を理解できない。当然だ。他人が他人を理解できる訳がない。近づけることはできるだろう。しかし、それまでだ。誰も、他人を理解できる訳が無い。

 矛盾していく。今まで無視してきた自分に完全に気付いてしまった。俺は矛盾している人間なのだ。

 あまりにも脆い自分に呆れる。俺は、こんなにも壊れやすかった。

 必死に自身を肯定する要素を模索する。

 無い、無い、無い無い無い無い無い無い。

俺は、存在していないのか。そんなわけない。呼吸をしている。心臓の鼓動が聞こえる。自分の意思で、まだ体は動く。

しかし、それだけだ。

生きている人間には、当然のことだ。これだけでは俺の証明にはならない。俺を証明する要素になりはしない。どうすればいい。俺を証明するためにはどうすればいい。

 矛盾している存在。それが俺か。そんなこと、あってはいけない。人間は矛盾してはいけない。人間は自身が何者かを証明できるものを持っていなければいけない。

 指紋や声紋? そんなもの当てにならない。確かに世界に一つだけかもしれない。だが、それが何になる。すでに矛盾している俺に、そのようなものが何の価値がある。外面的な特性だ。内面的なものが抜けていれば、既にそれは俺という個体ではない。

「どうすればいい。考えるんだ。俺を肯定する要素を、探し出さないと、俺は存在しない。俺は、何者だ。俺はなんだ」

 考えないと。答えは用意されているはずだ。絶対に、答えはあるはずだ。

 今までだって答えはあったじゃないか。俺はいつでも答えを出すことができたんだ。考えればいい。考えて、答えを出すんだ。

 考えろ、考えろ。

 答えはきっとあるはずだ。

 だが、いくら考えても、自身が否定されるだけだった。

「もう一度だ……考え直せ」

 自分に言い聞かせる。でも、やっぱり行き着く先は同じ。

 俺は矛盾している存在であり、俺の思想では、俺は存在していないのだ。有り得ない。

「もう……一度だ……もう一度だ」

 何回も自身を証明するために論理を組む。何度も何度も、壊れては組みなおし、崩れては積み上げる。

 結局、俺は考えるのをやめた。いくらやっても答えは出ないのだから。きっと今の俺の頭では、何も答えなんて出ない。だって、内臓機能の低下だ。脳だって例外ではないはずだ。

 シャワーを浴びて、さっぱりしよう。そのために浴室まで来たんだ。

 今は、少しだけでも気分転換をしなければいけない。


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