Unknown Sick-50
七 模索
懐かしいはずの自分の家は落ち着かなかった。何も特徴的なもののない、つまらないリビング。それはモデルルームと言っても、過言ではない。
寝室に移る。ベッドには僅かな皺だけ。机の上は綺麗に片付いているが、少しだけ埃が被っている。
「くだらない、くだらない!」
姉の家から持ってきた鞄を強く投げつける。壁に当たって、大きな音がするだけだ。
「くだら……ない!」
歯を食いしばって、両の拳を握る。そして、その場にしゃがみこむ。
「何でだ、何で手に入らない。難しくないはずだ。あの人に、想いを伝えればいいだけじゃないか」
それだけのことだ。でも全然上手くいかない。いざ言おうとすれば、怖くなって、何も言えない。こちらの想いを押し付ければ、きっと姉さんは、受け入れようとする。哀れみから、義務から、俺の想いを受け止めて、俺にその体を委ねるに決まってる。
でも、俺が欲しいのはそんなものじゃない。愛し、愛されたい。
「わからない、答えが出ない。どうすれば、いいんだ……」
「まーちゃん?」
振り向くと、そこには寝巻き姿の藤堂がいた。
「どうしたの?」
「なんでもないんだ」
「そうは見えない」
そっと藤堂は隣にしゃがむ。
「大丈夫?」
「放っておいてくれ。俺に、かまわないでくれ」
「でも……」
「いいから!」
藤堂は少し驚いて、その後微笑む。
「大丈夫だよ、私はまーちゃんを嫌いにならないから。だから、何があったのか話して」
ダイジョウブ、ワタシハ、アナタヲアイシテイルカラ。
ワタシハ、アナタガスキダカラ。
アナタをアイシテイルカラ。
アイシテイルカラ。
聞き飽きた女達の言葉。学生の頃から、何度も何度も、俺に近づく女達はこればっかりだ。何も知らないのに、何も知らないくせに。