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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-4

 夜中の十時過ぎ、姉は来た。長すぎないさらさらとした黒髪をなびかせ、「よう、弟」と普段と何も変わらずに現れた。

 姉は大会社の社長だ。専門学校卒業後、仲間内とで会社を立ち上げた。最初はプログラムなどの下請けを行っていたが、姉の発想力とそれを形にできる実力で、専門製品以外の開発などにも手を伸ばし始めた。俺が知っているのは、より現実に近いヴァーチャルリアリティ、どんなコンピュータウィルスも瞬時に見つけ、駆除方法を自分で作り出し、ウィルスを駆除するソフト。他にも株やら何やらで儲けているらしい。

 そういった会社の社長なのでいつも忙しいと言っている。だが、よく俺の家に来るということは案外暇なのだろう。

「いらっしゃい姉さん」

「最近どうだ、弟」ソファーに座りながら姉は言う。

 本当にいつも通りだな、この横暴ぶり。そして、まるでこちらの話を聞いていないような態度。

「ぼちぼちだよ、姉さん」

 いい加減真剣な話をしたいので、適当に答えた。

「そうか」

 その意思を感じたのか、姉の表情が変わる。先ほどまでの姉とはまるで違う。

 そう思った矢先ソファーから腰を上げ、冷蔵庫を開けた。そこから二本のチューハイを取り出し、一本を俺に投げた。

「何か話したいことがあるのだろう。ベランダでしようじゃない」

「わかったよ。でも酒を飲む前に……」

 最後まで聞かずに姉は酒を飲んでいた。大きくため息をついて、俺はベランダに出た。

 少しだけひんやりしている。夜空は暗く、星が見えない。壊れそうなくらいに細い三日月のみがうっすらと見える。ズボンのポケットに入っている煙草を取り出し、火を点けた。青灰色の煙はゆらゆらと風に揉まれながら、やがて消えていった。

「それで、話とはなんだ」

 ベランダに置いてある椅子に座りながら姉は言う。

 病院での話をした。健康診断を受けたこと、余命を宣告されたこと、病状、入院を断ったこと、精神安定剤をもらったこと、全てだ。姉は大きく目を見開き、驚きを隠せないようだ。何度か「冗談ではないのか」と尋ねてきたが、その度に「本当だよ」と返した。

 長い沈黙が場を支配する。煙草はもう三本目。話をしている最中間髪入れずに吸っていた。

 姉が持ち直したのは、俺が六本目の煙草に火を点けた時だ。

「もう煙草は吸うな」

「くだらない、もう決まっていることなんだ。何したって変わらないさ」

「やめるんだ」

「五月蝿いよ」

 強気な姉に対して、俺も強気で返す。どうせ死ぬと決まっているなら、何をしたって無駄だ。だったら好きに生きてみせるさ。今までもそうだった、最後までこの生き方を貫き通す。誰にも邪魔なんてさせない、誰にも変えさせやしない。


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