Unknown Sick-48
「私には……」
「ほら、何もできないじゃないか」
やっぱり、何もできないじゃないか。
「あなたには何もできない。だからこそ、俺は自分で自分を殺すんだ」
塀を登り、そこに立つ。姉がとても小さく見える。
「さよなら、姉さん」
「正和!」
軽く飛んで姉さんを見ながら垂直に飛び降りた。
最後に見るのが、あなたで良かった。
しかし、落ちる感覚が急に途絶えた。右腕が痛い程に何かに握られている。
「言ったろう。死ぬにはまだ早すぎる」
「離したほうがいいよ。あなたも落ちる」
「落ちないさ。私はお前の姉だ。お前を助けるのは私の役目だ」
姉は両手でなんとか俺を支えている。
「いくらあなたでも無理だよ」
「やってみせる」
自分よりも重い男を、姉は徐々に持ち上げていく。とても必死に、顔を真っ赤にして。
「やめてくれ、やめてくれよ」
「やめるものか」
とうとう姉は俺をベランダに引きずり戻した。
姉の呼吸は荒く、大きく肩で息をしている。
「趣味でやってる筋トレがこんなところで役に立つとはな」
「どうして……」
「何度も言わせるな。私はお前を守るんだ。これは私のエゴだ」
信じられない。そんなものを守るために、自分も落ちるかもしれないのに俺を助けたのか。
「だから、殺してくれなんて言わないでくれ」
照れるように姉は笑った。
「やめてくれよ。そんな優しさ、いらない」
俺が欲しいのはそんなものじゃない。
「これ以上何を求めるんだ、正和」
それ以上のものを求めているだけだ。
「どうした」
やめてくれ。やめてくれよ。俺を壊さないでくれ。あなたに半端に優しくされればされるほど、俺は、あなたが欲しくてたまらなくなる。
「正和?」
あなたを滅茶苦茶に壊したくなる。