Unknown Sick-46
病院に着いた頃には、すでに両親は息を引き取っていた。
交通事故、だったらしい。両親が仕事が終わり、二人で帰宅している最中に、とのことだ。自殺願望者の男が急に車の前に飛び出し、それを避けようと父はハンドルを切った。車は電信柱、ガードレール、街灯の順にぶつかった。決してスピードを出していたわけではない。路面が凍結しており、ブレーキがほとんど役に立たなかったらしい。二人はシートベルトをしていたものの、頭部を何度も強くぶつけ、病院に運ばれてきたときにはもう虫の息だったらしい。
二人の顔は白く、ぶつけた箇所であろう部分は赤黒く変色していた。
「どうして……」
美鈴が立ち上げた会社がようやく落ち着き、両親とゆっくりと盃でも交わさそうと思っていた頃だった。
そんな中、正和はこれからどうやって生活していくかを冷静に考えていた。
葬式では喪主を美鈴が務めた。両親は揃って弁護士で、それなりに有名だった。冤罪の者たちを何人も救った。そのためか、多くの人々が葬式に参列した。
参列した者たちは、正和と美鈴を見ると「あの人には本当に救われた」、「頑張るんだよ」、「しっかりとね」とそれぞれ言いたいことを言っていた。
夜中、正和と美鈴は、祖父が亡くなったときと同じく寝ずに線香番をしていた。美鈴は両親が亡くなった日からまともに眠っていないため、目が真っ赤に充血していた。それでも責務を全うしている美鈴は、とても弱々しく見えた。
「少し休みなよ」
「大丈夫」
「見てるこっちが大丈夫じゃないんだ」
「大丈夫だから……」
まったく、と正和は小さく漏らす。
「ねぇ」
「何さ」
煙草を口に咥えながら正和は答えた。
「おじいちゃんが亡くなった時に話したこと、覚えてる?」
「覚えてるよ」
「正和は、今でもああ言える?」
「言えるよ」
せっかく止まっていた美鈴の涙が瞳から溢れ出す。
「姉さんこそ覚えていないのか? 泣くのは死者への冒涜だ、って言ったこと」
「忘れてない……けど、そんなのあんまりよ」
「くだらない」
とうとう声を出して美鈴は泣き出してしまった。
「くだらないよ、本当に」
正和は立ち上がって、その場所から逃げ出した。