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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-44

「帰ったぞ、正和」

 姉がノックすらもせずに、ドアを開きながら言う。

「おかえり」

 体を無理矢理に起こす。うっすらと笑みを浮かべたつもりだったが、そうでもないだろう。

「具合はどうだ」

 いつもの姉の問いかけ。いつも通りに「問題ないよ」と答えた。

 その答えに姉はため息をついて、「おでんを買ってきたんだけど、お前も食べないか」と言った。



 違和感のある自分の体をゆっくりと動かしながら、俺はリビングに向かう。既に姉は座っていて、おでんを食べていた。

「遅いぞ」

「仕方ないよ、こっちは寝起きなんだ」

 ゆっくりと椅子に座ると、姉が箸と小皿を渡してくれた。それを受け取ると、俺は大根を一つだけ取る。

「なんだ、それだけでいいのか」

「とりあえずはこれだけでいいんだよ」

 まだ温かい大根を、箸で一口サイズに分ける。その一つを口に入れる。旨みが口の中に広がる。

「美味い……」

「だろう」

 もう一口食べられそうだが、これ以上食べてしまうと吐いてしまいそうで怖かった。大きくため息をついて、煙草に火を点ける。

「もういらないのか」

「あぁ、もう充分だよ」

 そうして俺は煙草を吸いながら、客間へと戻った。

ベッドに座ると、大きく深呼吸する。部屋の中に煙が充満している。やれやれと思いながら、窓を開けた。

ひゅっ、と鋭い音と共に冷たい風が吹いた。部屋の中は急に冷え込む。

少しの間窓から外を眺めた。暗い夜空、街の明かり、風の音、そして死の囁きが聞こえる。

 死んでしまえ。飛び降りて死んでしまえ。病に殺されるくらいなら、自分で殺してしまえ。何度も頭の中に反響する。その声は次第に大きくなって、やがて俺を支配した。

「そうだ、死んでしまおう」

 俺は自由だ。こんな理不尽な病に殺されてたまるか。飛び降りれば、この苦しみは二度と現れない。そうだ、そうだったんだ。俺は死にたくない訳じゃない。誰かに殺されるのが嫌なんだ。



 寝室を出て、バルコニーへと向かう。姉は既に眠ってしまったようだ。

 戸を開けると、相変わらず冷たい風が吹いてくる。

 ひゅうひゅう、ひゅっ、と不気味なリズムが耳元ではっきりと聞こえる。

 裸足のままで出る。ここは七階だ。飛び降りれば、少なくとも生きながらえることはない。


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