Unknown Sick-3
辛い。物凄く、辛い。まさかここまでとは……予想外だ。
冷蔵庫を開けて、水を取り出す。
「私にもちょうだい」
藤堂も口をあけながら、コップをこちらに差し出している。
「あぁ」
簡単に答えて、自分の分と藤堂の分の水をコップに入れる。
やがて口に残る辛さが消え去った頃、ソファーに座って小説でも読もうとしたのだが、俺のいつもの場所は先に藤堂に占拠されていた。
「だらしないな、太るぞ」
「私太らない体質なの」
やれやれだ。藤堂と向かい合うようにソファーに座り、読みかけの小説を開く。
「何の小説を読んでるの?」
「『君が思う』。著者『柳 優一《やなぎ ゆういち》』」
「柳さんの新しい小説だ」
「みたいだな。発売から二週間で売り切れ多数らしい」
「私この人の小説大好き」
「……ほら」
藤堂に小説を投げる。途中だが、いいだろう。内容は恋愛小説。この小説で唯一誉められるのは人の暗黒面を、上手く比喩していることだけだ。
藤堂は渡された小説を早速読み始める。暇つぶしの道具を奪われたので、仕方なく携帯電話を手に取った。メールが一件入っていた。マナーモードにしていたためか、気付かなかったみたいだ。
メールの送信者は姉からだった。内容は、今日の夜に遊びに来るとのことだ。届いていたのは、午後の二時半頃。俺がちょうど病院にいた時間帯だ。電源を切っている状態なのだからそりゃあ気付かない。これで言い訳はできる。
「藤堂」
「なに?」
「姉さんが来るから、もう少ししたら帰ってくれないか」
「私はいないほうがいい?」
「あぁ」
素直に言う。姉には俺の余命のことを説明しなければならない。藤堂に余命のことは話す気などない。こいつは他人なのだから。