Unknown Sick-39
六 壊己《かいこ》
白い部屋。白い壁。白い天井。高いところにある窓。部屋の中には機械がたくさんあって、体には色々と取り付けられている。鼻からは管が通されて、体はほとんど動かない。
ドアが開く音がする。目を動かして、何が入ってきたかを確認すた。
「正和?」
肩までぐらいしかない、絹のような黒髪の女性だった。その人はベッドの横にある椅子に座ると、穏やかな笑みを浮かべ俺の頭を撫でる。とても優しい。
「あ……」
なんとか礼を言おうと思ったが、口が上手く動かない。それを見た彼女はまた微笑むと、大丈夫、と言った。
何が大丈夫なのか、俺には理解できなかった。だけど、どうでもいいような気がして、視線を天井に戻した。
白い部屋。白い壁。白い天井。高いところにある窓。ぽつぽつと、微かな小さな音が聞こえる。きっと外は雨が降っている。
ドアが開く音がする。目を動かして、何が入ってきたかを確認する。
「まーちゃん?」
長い黒髪の女性だった。その人はとても悲しそうに見えた。大きな瞳には、何故か涙が浮かんでいる。
「元気?」
そう言いながら、ベッドの横にある椅子に座る。
「私ね、最近数学のテストで満点取ったんだよ。まーちゃんから教えてもらった勉強法で。凄いでしょ」
その女性は唐突に話し出した。時々下を向いて、急に深呼吸したりする。とても変わった女性だな、と思った。
「何か喋れる?」
女性をただ見る。どこかで会ったことがあるかもしれない。何となく見覚えがある。
「まーちゃん?」
視線を天井に移す。いつもの白い天井が見えた。
「ねぇ……」
とうとう泣き出してしまったようだ。まるで小さな女の子のようだ。
「く、だ」
この子のために何か喋られないといけないのだが、相変わらず口が回らない。
「ら、ない」
ようやく言い切って、瞼を閉じる。何故このような言葉を言ったのかはわからない。でもこう言えば、この子は安心するんだろうな、と内心思った。
心地よい雨の音と、少女のすすり泣くような音が、子守唄のようだった。