Unknown Sick-40
夜中に目を覚ました。薄暗い部屋。外から入ってくる僅かな月の光を映す白い壁。暗い天井。部屋の中の機械は狂うことなく電子音を発する。
どこからか音がする。こつこつ、と歩く音だ。
「くだらない」
声が聞こえた方へと視線を向ける。自分にそっくりな人物がそこにいた。
その人物は学生服を着ていた。そして、こちらを心底嫌うように見下して、やがて背を向けてどこかに消えていった。
幻を見るなんて、初めてだ。しかも過去の自分なんて。笑えない。
「くだ」
「らない」
幻のように上手く言えない。
「くだら、ない」
何故だろう、涙が溢れてきた。
「くだ、ら、ない」
俺は何故、ここにいるのだろうか。俺は何をしているのだろか。俺は生きているのだろうか。
「あ……う」
視界が涙でぼやける。俺は、生きていない。こんなの死んでいるのと、何が違うのだろうか。
「死にたく、ない」
こんなところで、生きながら死にたくない。俺は、生きていたい。
「う……あぁぁぁぁああぁぁぁあぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ……!」
体をじたばたと動かす。駄々をこねる子供のように無様で、情けなくて……嫌になる。
「死にたく、ない、よぉ」
嫌だ、嫌だ。
「どうしたんですか?」
誰だ、誰だ、誰だ?
「二階堂さん?」
見たことがない。声は人間の女なのだが、姿は違う。闇を体に纏い、目が紅い。
「嫌だぁぁぁぁああぁぁぁぁぁぁあ!」
怖い、怖い怖い怖い怖い!
「落ち着いてください!」
「あぁぁぁぁぁぁああぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁ!」
助けてよ、誰か……助けて。
「姉さん、姉さん!」
思いついた人物をそのまま何度も呼んだ。何度も、何度も何度も繰り返し、呼び続けた。