Unknown Sick-38
「な……」
それが合図のように、何かが逆流してくる。
「はっ、あ……」
べちゃべちゃと血は口から溢れ、真っ白なベッドを真っ赤に染め上げていく。それは見ようによってはとても美しいものかもしれない。
「なんだよ。何で急に」
両手が痙攣する。もはや俺の意思には従わないで、好き勝手にびくびくと動いている。
心臓の鼓動は早くなり、小動物のように早い。血が気管にでも入ったのか、咳も出始めた。
医者は看護師に何かを指示する。看護師が出て行く。医者は俺に駆け寄る。姉は目を大きく見開き、俺のことをただじっと見ている。
「ぐ、ははっは、あはははっははははっははははっははは……!」
おかしいじゃないか。急に血を吐くなんて。おかしいよ。おかしくて笑ってしまう。
「はははっはははっ、ははははっはっは!」
看護師が戻ってきた。医者は何かを喋りながら俺に寄る。手には注射器を持っている。
「俺に触るな!」
腕を振り回す。医者が手に持っていた注射器が床に落ちた。
「俺は正常だ! あんたらのほうが異常なんだ!」
そうさ、俺は正常なんだ。だって生きているのだから。本来なら一般生活すらできない、だと? 俺はしていくさ。血を吐いたり、気絶したりするのが何だって言うんだ。生きていけるのなら何も問題なんて無い。
「正和!」
姉が大きな声で名前を呼ぶ。振り向くと、姉は心底怒っているように見えた。
「なんだよ、その顔……俺の生き方に文句でもあるのかよ!」
病室のドアが乱暴に開き、男の医者が何人も入ってきた。その医者達は事情を聞くと、一斉に俺を取り押さえる。
「触るな……俺に触るなぁぁぁぁぁぁ!」
ちくっ、とした痛みが腕に現れる。
「俺は、俺は、こんなところ、で」
意識が急に朦朧としてくる。鎮静剤か、それとも睡眠薬か。この屑が……原因のわからない病気だっていうのに、よく考えもしないでそんなもの注射しやがって!
「殺してやる! お前ら、全員、殺して、やる」
「正和、お願いだから……」
ふざけやがって……あんたの、その優しさが、俺を駄目にするということに何故気付かない。あんたのお節介のせいで、俺は段々……。
「しばらくは薬を使い続けなければなりません」
「はい」
畜生……あんたのせいで、俺は。
「正直、転院をお勧めします」
「いえ、せめて、近くに置いておきたいんです」
「わかりました」
……俺は。
「正和……ごめんね」
コワレテイクンダ。