Unknown Sick-37
入ってきたのは医者と看護師。その二人は入ってくるなり、嫌そうな顔をしていた。
看護師が壁にあるボタンを押すと、高いところにある窓が開く。ようやく逃げ場を見つけた煙がそこから出て行った。
「検査の結果を話しましょう」
医者の顔は、俺に余命宣告したときとまったく同じ表情だった。
全内蔵機能の超低下、原因は見つけられない。前に聞いたことと同じことを繰り返す。
しかし今回は不思議な状態だったらしい。通常通り、との事だ。俺と姉は少し胸を撫で下ろしたが、医者は表情を更に険しくする。
「通常通りというものが、既におかしいんです」
肺活量の検査のみが二十代男子の平均。他の内蔵機能の検査は異常だった、と医者は話す。
「通常通りだと言っていただろう」矛盾を指摘する。それを聞いた医者は少し考え、言った。
「そうだね、例を挙げようか。
君が何か食べたとしよう。普段なら数時間で消化できるんだが、この状態ではほとんどできない。数十時間以上かかるんだ」
「そんな訳あるものか。食事は何か無い限り、三食ちゃんと取っている。出るものも出ている」
気恥ずかしい台詞だがそんなことを言っているときではない。
「そう、それがおかしいんだ」
医者は続ける。
「確実に異常なのに、普段の機能を維持している。先程説明した症状が現れるのが『普通』なんだよ。君は異常なのに正常を保っている」
医者は大きくため息をついた。
「正直、この病院では何もできない。もっと良い病院に移ったほうがいい」
「断る」
煙草を握り潰す。右手の手の平の一部は焼け、変な臭いがする。
「正和」
「黙れ。異常だからなんだって言うんだ。その状態で正常を保っているなら問題ないだろう。それに、病院を移ったって何もできない可能性のほうが高いんだ。だったら俺は自由にさせてもらう」
何が異常だ。それでも正常を保てるなら、俺は何も問題なんてないはずだ。だったらこのまま生きていたほうがいい。
「このままではいつ倒れてもおかしくないんだよ」
「黙れよ」
心臓の鼓動が強くなる。怒りからくる脈拍の上昇だろう。
「俺は俺の好きなように」
つ、と口から何かが流れる。拭ってみると、それは紅かった。