Unknown Sick-36
「調子はどうだ」
「問題ないよ」
「そうか……」
顔色が悪い。俺よりも姉の方が病人なのではないかと思うほどだ。
「私が憎いか」
突拍子もない言葉。だが、俺は悩むことなく「まぁね」と答える。
「そうか……」
俺は病院には行きたくない、と何度も言った。そして、意識を失う前に、藤堂に救急車は呼ぶなと言ったはずだ。それがどうだ、今俺は、受けたくもない検査を受け、不味い朝食を食べさせられている。
「できることなら、今すぐにでも帰りたいんだけど」
「それは駄目だ」
即答。相変わらず頭の切り替えの早い姉だ。
「お前には入院してもらう」
「くだらない」
くだらなすぎる。検査しても結果は変わらない。治せる手段などあるものか。
煙草を吸おうと思ったが、無いことに気付いた。いつの間にか服は着替えさせられている。小さくため息をつく。
「煙草か?」
「まぁね」
姉はコートのポケットから、俺がいつも吸っている煙草とオイルライターを取り出し、それを手渡した。
「助かるよ」
手馴れた仕草で一本取り出し、それに火を点ける。一瞬、病室で煙草を吸っていいものか悩んだか、俺に煙草を渡したと言うことは吸ってもいいのだろうと勝手に判断した。
「私にも一本くれ」
「嫌いじゃなかった?」
「私だってたまには吸いたいときがある」
姉に煙草を一本渡す。姉が煙草をくわえるのとほぼ同時に、俺は火を点けてあげようとしたのが、姉はそれを拒んだ。
「火ならそこにある」
そう言って姉は俺に近づく。お互いの煙草がちりちりと鳴る、そして姉の煙草に俺の煙草の火が移る。
姉は煙を深く吸い込むと、細く吐き出した。
「お前の癖だろう」
「何がさ」
「煙草を吸うときの癖だ。煙を深く吸い、そして細く吐き出す」
「……煙草を吸う人のほとんどがそうだと思うよ」
「そうなのか」
気の抜けるような会話だ。特に起伏もなく、オチもない。
そんな空気の中、ドアが開く。