Unknown Sick-33
「死んだら、人はどこに行くと思う?」
悩みではなく、ただの質問となっていた。
「興味ない」
そもそも人は死んだらそれで終わる。それ以上何もない。消えるんだ。
「まーちゃんは、死んだらどこに行きたい?」
とくん。少しだけ心臓が反応する。
「さぁな」
どくん。心臓の鼓動が一度だけ強く鳴る。
「私は、好きな人の側にいたい」
「そうか」
興味はない、だが気持ちを落ち着かせるために少し考えてみた。俺が死に、好きな所へ行けるとしたらどこに行くだろうか。
寝転がる。そこには雲の多い空が広がっている。雲の間から見える空は薄い水色で、とても弱々しく見える。でも、その分この空が愛しく思えた。
人の手の届かない場所に薄っすらと存在し、人に何も文句を言わないで、黙って見守っている。
「空か」
知らず呟いた。
そうだな、俺は空に行きたい。
「空に行きたいの?」
「くだらない」
煙を輪にして吐き出す。たまにしかやらないが中々上出来だ。しかし、風が急に強く吹き、その煙を消し去った。
「せっかく上手くできたのに」
こちらの気持ちを代弁するかのように藤堂が言う。
自分の考えていることが見透かされているようで、不愉快だ。
なので俺は寝る。
「不貞寝しないでよ」
「うるさい」
とことん俺の考えが見透かされて本当に嫌になる。
少し寝るだけが、本格的に寝入ってしまったらしい。不機嫌そうにしているであろう藤堂を見るのが億劫だ。
だが、藤堂は隣にはいなかった。周りを見渡す。すると、一面の蒲公英の中に人影があった。
夕陽が眩しくて目を細める。人影は動かないで、立ち尽くしていた。恐らく藤堂だ。俺は立ち上がり、藤堂であろう人影に近づいた。
すると、微かに小さな歌声が聞こえてきた。緩やかなリズムで、不快にさせない程度の下手さだ。
藤堂の声だ。夕陽に魅せられたのか、藤堂らしくない。煙草を取り出し、火を点けた。その音に気付いたのか、藤堂はこちらを振り向く。