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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-30

ちちち、と雀の鳴く声がする。いつの間にか外はうっすらと明るくなっている。時計を見ると、朝の五時三十分。あまりの時の流れの速さに混乱したが、すぐに持ち直した。

 藤堂に視線を向ける。首をこっくり、こっくりと変なリズムで動かしている。大きく深呼吸して、立ち上がる。読んでいた雑誌を適当なところに放り投げ、冷蔵庫に向かう。

 飲みかけのジュースを取り出し、コップに注がず直接口をつけて飲む。程よい酸味のオレンジジュース。やはり朝はこれに限る。

 大きく欠伸をすると、携帯電話が気になった。どこに置いたかをゆっくりと考える。確かバイトに行ったときから使ってないからリュックの中か。

 リビングを軽く見渡す。黒いリュックが目に入る。俺がいつも座るソファーの後ろにあった。

 リュックの中から携帯電話を取り出した。着信もメールも来ていない。まぁ、この時間に連絡をよこされても迷惑で仕方がないのだが。

 煙草に火を点け、ついでに藤堂を見る。長い黒髪が、首が動くリズムに合わせてさらさらと揺れている。物音を立てないようにゆっくりと藤堂に近づいた。手を伸ばせば触れられる位置に来ても藤堂は相変わらず首をこっくり、こっくりと動かしている。

 男のいる前で寝るとは、随分と警戒心のない女だ。とは言っても、そんなの今に始まったことでもないが。

 寝室から毛布を一枚持ってくる。そして、藤堂の肩を軽く二、三回叩き、「寝るなら帰れ」と言う。しかし、藤堂は無反応。予想の範疇だ。そっと両肩を掴み、ゆっくりとソファーに横にさせる。その途中少しだけ瞼を開けたが、すぐに閉じた。そして藤堂の上に毛布を被せる。

 見慣れた顔が天井を向いている。俺はその場に座り込み、藤堂の顔を観察した。

 目は大きいと思う。鼻は綺麗な形というべきだろう、唇はふっくらとしている。化粧は濃くはない、元から肌が綺麗なのだろう。髪は真っ直ぐだ、ストレートパーマでもかけているのかもしれない。

 女をここまで真面目に見たのも久しぶりだ。姉よりではないが、藤堂は美人な方だろう。

 繰り返される規則正しい寝息。別に、疚しい気持ちはない。本当に、ただ何となく、藤堂の唇に自分の唇を重ねた。ただ触れただけの唇と唇。無機質な接吻。だが、相手の確かな温もりが伝わってくる。

 唇を離す。藤堂に変化は見られない。俺にも何も変化はない。

「ご無沙汰だから、かな」

 などと、藤堂に口付けした言い訳を呟く。そんなことを口走った自分に恥ずかしくなり、俺は煙草を灰皿に押し当て寝室に向かう。

 ベッドに仰向けに倒れる。天井はいつも通りで、回転していない。急に眠くなる。

 あぁ、意識が薄れていく。視界が徐々に狭くなり、光が失われていく。

視界が暗闇に覆われる。その時に、死がこのように安らかなものだったらいいのに、と死にたくもないのにそう考えた。


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