Unknown Sick-29
煙草のカートンを二つと適当な食べ物を買って、今は自分の部屋のリビングにいる。藤堂はただ黙って俺に付きまとった。バイクに乗るときにいつのまにか後ろに乗っていたり、俺が食べ物を買っているときにこっそりと自分のものを入れたり。ちゃっかりしているというか、頭が悪いというか。
「で、お前はなんでまだいるんだ」
「まだ、話してないことがあるんじゃない?」
「もうない」
そう言うと少し俯いて「そう……」と言う。そして俺に買わせた自分の食べ物を手に取った。
「四百九十八円だ」
「細かいよ。出世払いで返すね」
「出世できればいいがな」
目を泳がせながら、「それは、その」と口ごもる。
そんな藤堂を横目に、先程買ったばかりの煙草に火を点ける。煙草があるとなしでは、ここまで気の持ちようが違うのか、と俺は実感している。煙草を買いに行く前の状態では、このような藤堂の発言にさえ苛々していただろう。
煙をゆったりと吐き出す。もわもわと宙を舞い、視界が白くなる。
「食事中に煙草はやめて」
「黙れよ。こんな時間に上がりこんで、自分の飯を買わせておいて文句を言うな」
藤堂は口を尖らせる。文句を言いたいのだろうが、確実に自分が悪いと理解しているためか、何も言わない。
「それを食い終わったら帰れよ」
「わかった。でも、もう一つだけ質問させて」
「早く言え」
大きくため息をつく。藤堂は今食べているものを急いで口に溜め込み、これまた俺に買わせたジュースでそれらを流し込む。
「私に何か隠し事していない?」
真剣な眼差しでこちらを見つけるが、口の端に先程の食べかすが付いているので、真剣さが微塵も感じられなくなっている。
煙を深く吸い込み、細く吐き出す。
「ある」
「話して」
「誰にだって隠し事はある。それはお前にだってあるはずだ。話す必要はない」
煙草を灰皿に押し当て、新たな煙草に火を点ける。
藤堂は俺の意見に反対するわけでもなく、だからといって賛成するわけでもない。ただ目を伏せていた。帰るつもりもないらしい。黙っているそんな藤堂に呆れつつ、俺は煙草を吸いながら適当な雑誌を手に取り読み始めた。