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Unknown Sick
【悲恋 恋愛小説】

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Unknown Sick-2

「あ、おかえり」

「あぁ」

 隣に住む女子大生、藤堂 恵《とうどう めぐみ》。先に断っておきたいのだが、このマンションはかなり家賃が高い。俺は姉のおかげで無料同然の値段だが、大学生が易々と一人暮らしできるような物件ではない。それらのことを考慮すると、藤堂の家はそれなりに裕福らしい。

「お邪魔しても大丈夫?」

「問題ない」

 ドアを引く。いつもの玄関が俺を出迎える。靴を脱ぎ、リビングに入ると、それについてくるように藤堂も入ってきた。そして部屋を見渡し、こくこくと小さく頷いている。

「どうしたんだ」

「いつも通り片付いてるな、と」

 何度も来ておきながら、よくそんなくだらない台詞が言えるものだ。

 壁にかけてある時計を見ると、短い針が午後の四時を指していた。早いが夕飯の準備をするためにキッチンに向かう。適当な野菜と鶏の胸肉を冷蔵庫から取り出し、乱雑に切る。その後、フライパンを取り出し、油を引く。火を通し、フライパンが温まってきたところでそれら全てを放り込む。豪快な音と湯気を立て、鶏肉はみるみる色を変えていく。塩と胡椒を振り、一味唐辛子をこれでもかと振りかける。そして隠し味にタバスコを入れる。焦げ目が付いてきたところで中くらいの皿にどさっと放り込んだ。この間僅か数十分。

「今日は乱暴だね」

「たまにはそんな日もある」

 それをリビングの中央にあるテーブルに置く。

 そういえば冷蔵庫に昨日の残りのシチューがあった。

「冷蔵庫に昨日のシチューがあるから温めてくれ」

「わかったよ」

 藤堂はソファーから立ち上がり、慣れた手つきで冷蔵庫からシチューの入った容器を取り出した。それをレンジに入れ、スイッチを入れた。

 ウー、と低い音を立てレンジは回る。その間に、インスタント味噌汁を二つ取り出した。

「しじみとあさり、どっちだ」

「変わらない気がするけど、あさり」

「わかった」

 二つ同時に封を切り、それぞれお椀に入れた。お湯を注ぎ、慎重にテーブルの上に置く。それとほぼ同時に、チン、と気の抜けた音がした。

 藤堂が熱そうにシチューを持ってくる。テーブルの上に置くと、すぐさまに「熱い」と言った。それを無視して、白米をご飯茶碗によそった。

 鶏肉と野菜の炒め物、シチュー、味噌汁、白米、一貫性のない今日の晩飯がテーブルに乗った。

「今日は、まーちゃんの乱暴晩御飯だね」

「いつも食いにくる奴が、人の晩飯に文句を言うな」

 藤堂は特別な用事がない限りは、晩飯を食べにくる。それが当たり前になったのは、いつからだろうか。二年前くらいだったろうか。

 長い黒髪を後ろで縛り、少しだけ不満そうに食事していた。藤堂は最近の女性によく見られる華美な服装や、乱れすぎた言葉遣いはない。いつもおしとやかに見えるように努力していると、前に言っていた気がする。

「どうしたの?」俺の視線に気付いたのか、少し気恥ずかしそうに藤堂は言う。「なんでもない」そう言って辛くしすぎた鶏肉と野菜の炒め物を口に運んだ。


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