Unknown Sick-28
「さっきのはどういうことなの」
「さっきのってなんだよ」
奥歯を噛み締める。煙草がないので落ち着かない。
「お姉さんがいたときのこと。凄い音がしたでしょ」
「あぁ。くだらないことを話して、ついカッとなっただけだ」
「そのくだらないことってなに?」
「お前に話してやる義理はない」
苛々する。ベランダに出なければこんな事は起きなかった。失敗だ。
「話して」
「くだらない」
「くだらなくない」
「くだらない」
「まーちゃん」
「くだらない」
くだらない。何もかもがくだらない。こいつの矮小な存在も、こいつに付き合っている俺も、何もかも。
奥歯をより強く噛み締める。ギリッ、と鳴る。
「話して」
「お前に話して何になる」
「少なくとも、まーちゃんの気は楽になるよ」
「お前は本当にくだらない奴だ」
そんなものお前の勝手な勘違いだ。俺のことをお前に話したところで、俺の気持ちは楽にならないし、救われもしない。お前に弱みを見せたら、お前が優越感に浸るだけだ。
「何がさ」
「お前なんかに話したところで、何も解決されないことだからさ」
そう、俺の寿命のことを話したって、お前には何もできない。俺に同情するぐらいが関の山だろう。俺は同情なんてされたくない。
「話してみないとわからないでしょ」
「話したって何も変わらない」
「今日うちに来たとき言ってたよね、自分にできることならなんでもやってやるって」
「ちっ」と小さく舌打ちする。いつも些細なことはすぐに忘れるくせにこういうことはしっかりと覚えているのか。なんて奴だ。
口約束とはいえ、約束は約束か。
「……詳しいことは言えないが、姉さんと口論になった末に、俺から手を出したんだ。そこに窪みがあるだろう。それは俺が殴って窪ませたんだ」
「まーちゃん。どうしたの?」
「言っただろ、口論になって手が出てしまったんだ。さぁ、話は終わりだ。俺は煙草を買いに行く」
立ち上がり、玄関に向かう。それに藤堂も付いて来る。
「何なんだ、お前は」
「私も一緒に行く」
もう、好きにしてくれ。俺は煙草を吸いたい。