Unknown Sick-24
「ふん。俺は限りある自由を生きているだけだ。俺が自由だと思ったら自由なんだ。誰にも何も言う権利なんてない」
その忠告を無視して、あえて使い古された言葉を言った。
「ならば、私の考えも誰にも否定できまい。それがお前であってもな」
確かにその通りだ。だが、それは自分だけのことじゃあない。あなたの考えには少なくとも俺が関係している。他人が関わっている時点で、それはもうあなただけの思想でもなんでもない。
「くだらないな。俺が関わっているのに、それを自分の考えと言うんだね」
姉は少しだけ眉間に皺を寄せる。俺の言葉を理解していないといいうような表情だ。
「俺の答えが変われば、あなたの答えも変わる。そんな自己のないものなんて、俺は認めない」
「そうだな。私には自己がない。そう言われても仕方がない」
姉は大きくため息をつく。そして立ち上がり、俺の隣に座る。
だいぶ落ち着いた心臓が再び、強く鳴り始める。
「だがな、私にも譲れないものがある。私はお前を失いたくない。だからこそ、どれだけお前に罵倒されようと、嫌われようと、私はお前を生かす道を選ぶ」
「くだらないね。俺は自分のやりたいように生きる。姉さんにさえ俺は束縛させない」
「正和……」
「今日はこのくらいにしないか。明日から何も仕事がないからね。久しぶりに怠惰な生活を送りたいんだ」
「……わかった。今日はこのくらいにしておこう」
「今日は帰ってくれよ。少し一人になって考えたい」
「あぁ。また来る」
姉を玄関まで見送る。「じゃあね」と言うと、姉は振り向き、とても悲しそうに「あぁ、またな」と言って出て行った。
一人になった俺は、ソファーに座ってまた煙草に火を点ける。
心臓は未だに強く鼓動している。落ち着いたり、落ち着かなかったり、忙しい心臓だ。
右手にはまだ姉の感覚が残っていた。細かった首。あっさりと倒せるほどの軽さ。柔らかそうな肢体。あのまま犯すこともできたかもしれない、という邪念が微かに頭をよぎる。
俺は姉を手に入れたい。叶わない恋かもしれないし、報われない恋かもしれない。それでも、俺は彼女を手に入れたい。
どうかしている。こんなことを考えるなんて。俺にとって、姉は姉としての存在以外許されない。そんなの、何年も前に到達した結論だ。でも、俺の知らないところで、俺の知らない男に、姉が汚されるのがたまらなく、嫌だ。
「本当に、どうかしてる」
くだらないことを考えすぎた。寝よう、何も考えたくない。どうせ明日から何も仕事がないんだ。ゆっくり、休もう。