Unknown Sick-23
「正和、終わりにしよう。お前は自由に生きているわけじゃあない。そう思いたいだけなんだ。今まで黙ってきたが、もう遠慮しない。お前は自由なんかじゃあない」
やめてくれ。何も喋らないでくれ。俺は自由だ。何にも縛られない。誰にも否定させない。誰にも理解させない。
「黙れって……」
玄関のドアが乱暴に開く音がする。そこからばたばたと慌ただしい音と共に藤堂がリビングに現れる。
俺と姉の様子を見て、藤堂は目を大きくぱちくりさせる。必死に頭を動かし、今起きていることを理解しようとしているのだろう。
「なに、してるの?」
藤堂が現れたことによってか、急に頭が冷えていく。
「出て行け、藤堂。お前は邪魔だ」
「まーちゃん」
「黙れ。何も喋るな。何も見るな。何も理解するな」
邪魔なだけなんだから。
「お姉さん」
「すまないな、藤堂。今私と正和は大事な話をしている最中なんだ」
「でも……」
「大丈夫だ。だから席を外してくれ、藤堂」
うっすらと微笑みを浮かべ、姉は藤堂に言った。微笑を浮かべているものの、それは拒絶の言葉。藤堂もそれを察したのか、小さく頷くと、俯きながら出て行った。
まったくもって上出来だよ。無駄なことを話すと藤堂まで加わってややこしくなるからな。
「さて、正和。話の続きをしようか」
赤い目を向けながら言った。
「あぁ、構わないよ。ハプニングで頭も冷えた」
ソファーに座り、煙草に火を点ける。今までの呼吸が嘘みたいに整って、感情も落ち着いている。
姉は俺の向かいに座る。
「散々言ってくれたね。俺は自由じゃないとか」
「あぁ言った。まさにその通りだろう」
煙を細く吐く。
「自由じゃあない、ね」
確かにそれには一理ある。実際にやりたいことをやっているわけでもないし、何かに縛られていない、という訳でもない。
だが、それはそうだろう。人間は生まれてから死ぬまで何かに縛られる運命にある。それは家族であったり、仕事であったり、恋人であるように。
ただ、俺は与えられている限りある自由を存分に使用しているだけだ。
「おっと、使い古されたような言葉は使うなよ」
こちらの考えを察してか、姉は忠告を言った。