Unknown Sick-19
「は……はぁ……は」
やばいな。意識もはっきりしない。こんな状態で戻っても、姉に病院だ何だと言われるに違いない。どうするか。
八〇三号室の前に着いた。相変わらず呼吸が荒い。ドアノブに手を伸ばしたが、引っ込めた。視線を少しだけ右にずらす。バイトが終わったのは十二時ぐらい、スピードを出して帰ってきたから、まだ十二時半を回ってないはずだ。
よろよろとしながら隣の八〇四号室に向かい、チャイムを鳴らす。
「はい、どちら様でしょうか」
少しだけ緊張の混じった声色だ。
「俺だ。正和、だ。すまないが、少し、邪魔させてもらえないか」
「まーちゃん?」
ドアが開く。隙間からゆっくりと本人かどうかを藤堂は確認する。そして、それが本人であるとわかるとドアを全て開き、俺に入るように動作で促す。
「助かる」
「どうしたの?」
「少しだけ、休ませて、くれ」
もう意識が切れそうで仕方ないんだ。こんな汗だくの男で悪いが、休ませてもらいたい。
「大丈夫?」
藤堂は俺を寄り添うように支える。
「は……」
本当に助かる。
「姉さんには、言うなよ。その代わり、俺にできることなら、何でもやってやるから」
「それよりも早く横にならないと!」
はは。なんか、変だな。まさか藤堂に助けを求める、なんてな。
そして意識が切れた。
目が覚めると、見慣れているようで見慣れていない天井。視線を泳がせる。俺の部屋にはないものが多々ある。呼吸は落ち着いている。体は動く。意識ははっきりしている。
上半身を起こすと、何かが落ちた。濡らしたタオルのようなものだ。額に乗っていたのだろう。
ここはリビングだな。俺の部屋と間取りは変わらない。
「起きたの、まーちゃん」
聞きなれた声。
「あぁ。迷惑かけたな」
驚くほど頭がすっきりしている。前のように曖昧な記憶もない。
ここは藤堂の家のリビングだ。女性らしく片付いているし、ぬいぐるみなども多い。